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第20話

   だが、満更じゃない。むしろ、そのとき小作りな顔に浮かんだ表情(かお)に魂を揺さぶられた。  カイトは、それこそ聖母マリアのように慈愛に満ちた微笑を口辺に漂わせて俺の腕を捧げ持つ。  そして傷口を消毒するにはこの方法が一番、と信じられていた時代の人のようにK・Kのぐるりに舌を這わせた。  それから、勢いよく唇を重ねてきた。前歯がぶつかって、ガチンと鳴るほどだった。  俺のそれを根こそぎにするように絡みついてきた舌はチャーハンの味がしたが、かまわず吸い返した。  カイトを仰向けに横たえ、足をくの字に立てさせた。彫るのは、もちろん足の付け根だ。  これから将来(さき)も何人もの男たちが、カイトを性奴同様に扱うはずだ。  ただし秘部を暴いたとたん俺のイニシャルが目に飛び込んでくれば、必然的に妬ましさを覚えるという寸法だ。  くすぐったがって腰をひねるのを押さえつけながら、慎重に位置を決めた。下書きをすませて、いざ本番といく。  くそ、指が震えてうっかり自分の手の甲を刺してしまった。  コンパスの針を改めてインク壷にひたした。深呼吸ひとつ、わくわくとしているとみえて火照りはじめた肌にN──尚文の頭文字だ──の左側の縦棒をぷつぷつと刺していく。  野蛮な行為か? 柴田がこの場に居合わせれば、すさまじい剣幕で殴りかかってくること請け合いだ。  生憎と見解の相違だ。これは、よりいっそう絆を強めるための儀式だ。 「痛いよ」  カイトは甘い声でさえずる。 「痛いよ」  頭をもたげ、澄んだ目を向けてきて白い歯をこぼす。でかでかと彫ってほしい、と催促するふうに腰を浮かせぎみにする。  ひと刺しするごとにペニスは大はしゃぎで、うれし涙を流すまでになった。ぷくり、ぷくりと血の珠がN・Mを彩るころには、はち切れてしまいそうなほどしなっていた。  コンパスの針を尿道口に浅く沈めてみる。蜜をまとった針でフィニッシュといけば、 「あっ、だめ、射精()る……っ!」  ペニスが爆ぜて淫液を噴き上げた。 「行儀が悪い、床が汚れたじゃないか」    うつ伏せにひっくり返した。カイトはむしろ嬉々として四つん這いになり、蒪菜(じゅんさい)の若芽を包む寒天質のようなそれらを一滴残らず舐めとって回った。

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