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第2話
「え……マジで?」
大門の衝撃の告白に、広部は鳴ってもいない雷に撃たれたような気分になる。大門と高屋がつき合い出したのは昨年の5月末。
ちょうど今頃の時期で、1年ほど経つ。
「でも、キスして、一線くらいは……」
「何を言ってるんだ」
「そうだよね、つき合ってるんだし」
「高屋さんがこっちに戻ってきて、一緒に食事して、映画に行った。あとは服作りで身体を貸してた」
身体を貸していた。
という一聞、艶かしい響きの言葉だが、それは、今や売れっ子のデザイナーの仲間入りを果たした高屋の劇的に増えた採寸や仕上げを手伝っていたという意味らしい。
「はぁ、警察関係とデザイナーって忙しそうだから遠野も刑事じゃなくてモデルにしたんだけど、ここまで来ると、そこら辺の高校生の方が進んでそうな感じだな」
広部は食べていたフィナンシェが入っていた正方形の箱の包装紙を手に取ると、手際良く飛行機状に折る。その紙製の飛行機は雨の降る空までは飛ばず、ガラス窓でぶつかって、カーペットへと静かに落ちた。
「そんなに悪いか。食事をしたり、仕事を手伝うのは……」
大門は武骨ながらに言うが、別にそこには何か苛立ったような、不甲斐ないと思うような感情がある訳でもなく、静かだった。
「いや、悪いことはない。でも」
「でも……」
静かな大門に、さらにこわいくらいに静謐さを纏う広部はすっと大門の唇を奪おうとする。
その様は鮮やかかつ、大胆にボールを奪うポイントガードのようだった。
「隙だらけ……そんなんじゃあ、悪いヤツに奪われちゃうよ?」
不敵に笑う広部としては悪いヤツ、つまり、自分に大門の唇は奪われるということだが、大門としては誰かに高屋の唇が奪われるという意味にとったらしい。
「なにもそういうことをしないって思ってる訳じゃない。ただ、やっぱり、思い出に残るヤツにした方が良いんじゃないかって……」
珍しくブツブツという風に大門は言うと、広部はふふっと笑う。
確かに、高屋は売れっ子のデザイナーであり、かつて高校生だった大門達の憧れの存在だ。
それに、大門自身も意外とロマンティストな部分もあるのだろう。海辺なら夕陽を眺めながらとか、山頂からなら朝陽を臨みながらとか、そういうビジョンがあるのかも知れない。
「でも、何だか、しっくりこないし、俺と高屋さんが休みの日なんて何日も……俺もこの小説みたいに転職して、時間を作るかな。高屋さんともっといられる仕事に就いて」
皮肉めいたように大門は『ワードローブ』の表紙を撫でて笑うと、珈琲を飲み干した。
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