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第四話
調教する……ヒカリはたしかにそう言った。
しかしそれを甘受するキョウジではない。
「俺がお前なんかに屈すると思ったら大間違いだ!」
吠える夫をフフンと鼻で嗤うと、ヒカリはキョウジの前に椅子を持って来てそこにフワリと座った。
スラリと伸びた細い足を高く上げてから、ゆっくりと組む。
キョウジの目の前に形のいい尻とレザーが鋭角に食い込んだ股間が晒されて、劣情が否応なしに煽られる。
股間が痛いくらいに張り詰め、今すぐ白濁を吐き出したいと本能が叫ぶ。
しかしキョウジは驚異の忍耐力でそれを耐えた。
歯を食いしばってヒカリを射殺さんばかりに睨み付ける。
そんな夫を見ても余裕の笑みを浮かべるヒカリ。
かつて夫の動向にビクビクと怯えてばかりいたヒカリの姿はない。それがさらにキョウジの怒りに火を付けた。
――絶対に屈しないぞ。
この縄さえ解ければ……そう思い、力の限りに身を捩って拘束から逃れようと必死になった。
縄を解いたら俺を虚仮にしたことを謝罪させてやる。
どう足掻いたってオメガはアルファに勝てないんだということを思い知らせるのだ。
そうだ、ついでにブチ犯してやろう。この熱は、こいつに突っ込まなければ解消できない。
ボンテージを引きちぎって無理やり押さえ込んだら、最奥に突っ込んで壊れるくらいガンガン突っ込んでやる。
泣いても喚いても関係ない。孕むまで犯し尽くして項を噛んで、俺に絶対の服従を誓わせてやる。
そうすればこの生意気なオメガも、俺に心から屈服するはずだ!
アルファの本能に囚われたキョウジは、己の思考が矛盾にまみれていることに全く気付かない。
ヒカリが男性であると言うだけで、あれほど馬鹿にし続け指一本触れようとして来なかったにもかかわらず、今はただ妻を犯し尽くすという妄想に囚われながら、懸命に力を振り絞る。
しかしどれだけ必死になっても、縄が解ける気配はない。
時間だけが空しく過ぎていく。
その間もラットは続く。無情にも。
体の芯が熱を持ち、全身から汗が噴き出す。
股間のイチモツは臨戦態勢。零れ出たカウパーがダラダラと滝のように流れ、少しの刺激でミサイルを発射できそうな勢いだ。
そんなキョウジの姿を、ヒカリは楽しげに眺めている。指先一本触れるでなく、声の一つもかけるでもなく。
ジットリとした眼差しで視姦し続けるのだ。
屈辱的とも言える視線。しかしラットの熱に侵されたキョウジにとっては、それすら刺激となって官能が高められていく。
しかしここまで直接的な触れ合いは一切ない。
熱を吐き出すことができないキョウジは次第に焦れていった。
「……なぁ」
キョウジの口から小さな呟きが漏れる。
「お前は本当にいいのかよ」
「何が?」
「俺が、欲しいと思わないのか?」
いくら抑制剤を服用しているとはいえ、一つの部屋にアルファとオメガがいるのだ。
しかも片方は全裸で、今にも爆発しそうな屹立を晒している。
そんな姿を見て、本当に欲しいと思わないんだろうか。
――いや、こいつだって本当は欲しいはずだ。
彼が今まで関係してきた女たち――それは全てベータ女性だったわけだが、彼女たちはキョウジの股間を見ただけで喜んでむしゃぶりついてきた。
己のイチモツの長さと太さに自信があるキョウジは、ヒカリの欲望に訴えかけることにしたのだ。
「今縄を解けば、これをお前のナカに入れてやろう。お前は下手くそとか言っていやがったが、今まで関係してきたベータたちは皆よがり狂ったんだ。実際挿れて試してみたいとは思わないか?」
「別に。結婚してから一年も放っておかれたからね。今はもう、そういうのは間に合ってるから」
「間に合ってる……だと?」
ヒカリの言葉に、キョウジは耳を疑った。
妻のことは家に閉じ込めて、外部と一切接触させないようにしてきた。
そんな彼が「間に合っている」とは……?
脳裏に嫌な二文字が浮かぶ。
「まさかお前、浮気してたんじゃ……」
その言葉にヒカリは吹き出した。
さも可笑しいと言わんばかりに、腹を抱えて笑い出した。
「笑ってないで答えろよ!」
「浮気だなんて、あなたじゃなし。僕がそんな不潔なことするわけないだろう?」
「じゃあなんで間に合ってるなんて」
そこまで言って、キョウジは気付いた。
恐らくヒカリは強がりを言っているのだと。
――この期に及んで、見栄なんて張りやがって。
キョウジの心にほんの少しの余裕が生まれた。
「そうか、お前は処女だから、俺の巨大なモノは怖いのか。そうか、そうだよな」
ハハハと嗤うキョウジを、ヒカリは「違うよ」とバッサリ切り捨てた。
「それのどこが巨大だって言うの? 僕に言わせればそんなもの、大きくもなんともない。それにあなたは僕のことを処女だと言ったけれど、お生憎さま。処女なんてものはとっくの昔に捨て去ったよ」
「何っ!?」
高校までずっとオメガ専門校に通っていた箱入りオメガのヒカリ。
付き合っていた当時、戯れにこれまでの交際相手のことを聞いたことがあったが、そのときは
『付き合った人はキョウジさんだけ。キスなんてしたこともないよ』
と言って恥じらっていたのに。
貞淑な妻だと思っていたヒカリのまさかの発言に、キョウジは愕然とした。
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