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第五話
「一体誰と……まさかSPの奴らをたらし込んだのか!?」
「あんな奴らと彼 を一緒にしないでくれる? 僕の大切なパートナーにかかれば、あなたご自慢のモノだってほんの小さな小枝にしかすぎない」
「これのどこが小枝だと!?」
自慢のイチモツを馬鹿にされたキョウジが吠える。
「そんなに凄いって言うなら、間男を今すぐここに連れて来て、俺のと比べてみろよ!」
喚き散らすキョウジを「仕方ないな」といった目で見たヒカリは、徐 に椅子から立ち上がると踵を返して部屋の隅へと移動した。
ボンテージの背面はTバックになっていて、白くまろやかな臀部がキョウジの前に晒される。
「くっ……!」
オメガとは言え男性であるヒカリの尻は、女性に比べると決してふくよかではない。そんな肉付きの悪い尻など普段のキョウジの好みからは外れているし、普段であれば絶対に食指を伸ばすことはない。
しかし今のキョウジは飢えた獣だ。
見るからにスベスベとして艶のある双丘が、歩くたびにプリプリと揺れる様 を見せつけられただけで達しそうになってしまうほど、欲求の限界が近い。
もう耐えられない。これ以上お預けされたら気が狂う!
恐るべしラットの威力。
キョウジはもはや恐慌状態に陥っていた。
――今すぐあの尻にぶち込みたい……そのためだったらなんだってする……!
ヒカリが足を舐めろと言うならば喜んで舐めよう。
どんな贅沢もさせるし、今後はきちんと妻として扱う。
――だからせめて、先っぽだけでも挿れさせてくれ……!
キョウジは完堕ち寸前だった。
発情 、本当に恐るべし。
一方のヒカリはというと、よだれを垂らさんばかりのキョウジにクスリと嗤いながら、ゆっくりと歩みを進める。
その手の中に、何か黒い物体が見えた。
「なんだ、それは」
「じゃーん! これが僕のパートナー、魔羅鬼 くん二号です!」
それは巨大なディルドだった。
「……は?」
こんな場面でまさかそんなモノが出てくるとは思わなかったキョウジの口から、まぬけな声が漏れる。
成人男性の腕ほどの太さであろうそのディルドは、長さもずば抜けていた。
よく見ると血管に似た太い筋がビシリと浮き、真珠を模したような突起が無数に付いている。
グロい。はっきり言ってグロすぎる。
「だからー、僕の孔は魔羅鬼くんに慣れちゃったから、そんな小枝なんかじゃ物足りないって言っているんだよ」
「てゆーかお前、そんなもの一体どうやって手に入れたんだ?」
ヒカリが実家から持ってきた荷物の中に、こんなものは入っていなかった。
そればかりではない。ボンテージや鞭だって見たことがない。
そういえばこんな縄、自宅にあったか……?
疑問が次々と浮かんでくる。
キョウジはヒカリが外部と接触できないように手を尽くしていた。
この家には電話もパソコンもないし、スマホは早々に取り上げた。そのうえ家から一歩も出さなかったし、小遣いはおろか生活費だって渡したことがない。
だからヒカリがこんな物を買い揃えられるはずがないというのに……。
「なんだ、そんなこと? ネット通販したんだよ」
「はっ? んなわけ」
「ないと思うでしょ? たしかに僕はスマホを持っていない。けれどあなたは持っているよね」
「まさか……」
「あなたが愛人とセックスしている最中に、こっそり拝借いたしました!」
一番最初は、キョウジと結婚して初めて迎えた発情期の直後だった。
抑制剤を服用しているとは言え、たった一人で迎えるヒートはあまりにも辛い。
しかも結婚したという事実がヒカリの思考に変化を齎したのだろうか。
普段であれば前を擦ってやり過ぎせていたヒートの波が全く治らない。後ろが寂しい。アルファの精子を注いで欲しい。
発情期の一週間、ヒカリの頭にあったのはそのことだけだった。
しかしキョウジはヒカリを救ってはくれないだろうことは目に見えていた。どんなに尽くしても、邪険に扱われる日々の中、どうにもならない状況に苛立ち、絶望した。
そしてヒカリは決意する。
救ってくれないのなら、自分でなんとかするしかない……と。
ヒカリは行動力と実行力が備わった人間だった。
箱入りオメガのヒカリだったが、発情期を一人で乗り切るためのグッズが存在することは知っていた。
高校時代、性に奔放なクラスメイトがいろいろ教えてくれたのだ。
あのときはただ顔を赤らめ恥ずかしがってばかりだったヒカリだが、今となっては聞いておいて本当によかったと、ビッチなクラスメイトに心の底から感謝した。
問題はどうやってそれを入手するかである。
ヒカリには外部と接触する手段がない。
考えあぐねいていたとき、ふとリビングに置かれたままのキョウジのカバンが目に入った。
持ち主は今、自室で秘書とセックスの真っ最中。
キョウジは盛ると上着やらカバンをその辺りに放ってサッサと寝室へ向かう癖があるのだが、その中にスマホが入れっぱなしになっているのをヒカリは発見した。
――このスマホが使えれば……。
恐る恐る手を伸ばし、スマホを掴む。
ロックは掛かっていたが、短かった交際期間の記憶をなんとか呼び戻し、心当たりの番号を数回試した結果、無事解除できたのだ。
久々に開かれた外部との扉。
しかしヒカリは助けを求めなかった。万が一にも通話記録を確認されたら拙いことになる。そう考えると、実家に連絡することもできなかったのだ。
代わりにアダルトサイトをひたすら閲覧しまくった。
そして巡り合ったのが、魔羅鬼くん一号だった。
ヒカリは早速、代引きで購入。
金は実家の母が「何かあったときのために」と、キョウジに内緒で持たせてくれたもの。
ヒカリはありがたく、それを使った。
そして対面した一号くんは、二号くんより小ぶりながらも堂々とした出で立ちをしていた。
こんなものが本当に入るんだろうかと危惧したが、次に訪れた発情期では充分に役立ってくれた。
ヒカリは魔羅鬼くん一号に処女を捧げ、見事発情期を乗り切ったのだ。
「そんなモノに……処女を捧げたなんて……」
ヒカリの告白にキョウジは呆然とした。
そして、欲しくて欲しくて堪らないヒカリのナカに迎え入れられ、我が物顔で犯しまくった魔羅鬼くん一号に、殺意がフツフツと湧き上がる。
「一号くんには本当にお世話になったんだけどね、酷使しすぎて壊れてしまったんだ。だからこの二号くんが今のダーリンって言うわけ」
二号くんを両手で掲げ、うっとりとした顔で頬擦りするヒカリ。
ディルドを心から愛しているといった顔付きを見たキョウジの目に、ジワリと涙が浮かんだ。
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