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第六話

「そんなものに頼らなくったって……」 「白々しい。頼らざるを得ない状況を作ったのはあなたじゃないか」  キョウジの言葉をバッサリと切って捨てた。 「本当のことを言えば僕は、あなたと普通に離婚する気だったんだ。けれどあなたが愛人に『あんな辛気くさい男なんかと結婚するか』って言ったのを聞いて決意したんだよ。あなたを調教して従順な夫に仕立てて、僕なしじゃ生きていけなくなった後、無慈悲に捨ててやろう……ってね」  どうせ捨てる人なんだから、セックスしたってなんの意味もないだろう? ……ヒカリはそう言って、うっそりと嗤った。 「そ……んな……」  キョウジの絶望は深まる一方。  オメガというごちそうを前に散々お預けされてきた。そのうえ堂々と捨てる宣言などされるなんて、これ以上の不幸があっていいものだろうか。  しかしこれも全て過去の自分の行いが災いしてのこと。  キョウジは過去に戻って、かつての自分を思う存分殴り倒したい気分だった。 「これからは心を入れ替える。愛人とは別れるし、お前のことを大切にする。だからお前もそんなモノは捨てて、俺を受け入れてくれっ……!」  涙ながらに懇願するキョウジ。  そんな夫を冷たい目で見下ろしながらヒカリは、「その言葉をもっと早く言ってくれていたら、僕だって……」とポツリ呟いた。  キョウジのことを愛していた。  だから彼の妻になれて本当に嬉しかった。  しかし待っていたのは非情なる仕打ち。  尊厳をズタズタに踏みにじられたヒカリの愛情は霧散し、最後に残ったのは憎しみという感情だけだった。  だからもう、今さら何を言われても遅い。  目の前のキョウジが滂沱の涙を流して本気で反省している姿を見たところで、全く心が痛まないし、決意が鈍ることもない。  むしろ「全裸ちんちんマンのくせに」と鼻で嗤う余裕すらある。 「僕の決心は変わらない。これまでの自分の行いを悔いるがいい!」  ハハハと高笑いしながら、キョウジの屹立をピンヒールで踏みつけた。 「うっ!!」  硬いソールに踏みにじられて、体をビクリと震わせるキョウジ。  激しい痛みが彼を襲う。  しかしそれも一瞬のこと。  待ち望んだ直接的な刺激を得た彼の雄は、その痛みすらすぐに快感に変えてしまった。 「……っ、ぁぁっ……」  荒い息を吐きながら、ヒカリから与えられる歓喜した。 「足で嬲られて感じるなんて、変態だね」 「そ、んなこと……は……」 「ないなんて言わせないよ。カウパーもさっきより流れてる。そんなに気持ちいい? あなたがドMだなんて知らなかったなぁ」  クスクスと嗤うヒカリの声さえも、今のキョウジにとっては官能を高める材料になってしまう。  さらには足でゆっくり上下に擦られて、固く張り詰めた怒張が欲を吐き出したくてビクビクと蠢く。 「ヒカリ……お願いだ……もう、出させてくれ……」 「え? もう? キョウジさんって案外早漏なんだね」  さすがは粗チンだね! と、さもおかしそうに嗤うヒカリに反論する元気もない。  パンパンに張り詰めた陰嚢いっぱいに溜まった白濁を放出して、ラットによって齎された体内の熱を鎮めたい、そのことだけが頭の中を支配していた。 「“どうか早漏の粗チンを慰めてください”って言ったら、イかせてあげてもいいけど?」  普段のキョウジであれば絶対に口にしないであろう言葉。  ヒカリからそんなことを言われた時点で怒りが頂点に達し、暴力沙汰に及んでいたかもしれない。  しかしラットの熱に浮かされたキョウジは、迷うことなく言葉を紡いだ。 「どう、か……早漏の、粗チンを、慰めて……」 「プッ! 本当に言うなんて!! 堕ちるの早すぎない?」  満足そうにケタケタと嗤う。  そして足をどけると、カウパーの滴る鈴口に指を添えてツゥッと指を動かした。 「くはっ!!」  雷に打たれたような痺れがキョウジの全身に走る。  一切の痛みもなく、優しく撫でられたのだ。そのソフトタッチに剛直がビクリと跳ねて、一気に射精感が高まる。 「あぁっ……ヒカリぃ……」  蕩けた目で続きを促すキョウジ。  そこにアルファの中のアルファと呼ばれた、傲慢なキョウジの姿はない。 「もっと……もっとしてくれ……出させて……」 「えー、やだぁ。だって手が汚れるでしょう?」  ヒカリの言葉に、キョウジは再び絶望を見た。 「そ……な……頼むよヒカリ、お願いだ!」 「ほら、僕ってわりと潔癖じゃない? 手が汚れるのはいやなんだよね」 「頼むっ、この通りだ!! これ以上焦らされたら頭がおかしくなる!!」 「……僕の言うことを一つ聞いてくれたら、イかせてあげてもいいけど?」 「聞く! 何でも聞くから頼むっ!!」 「それじゃあ僕の軟禁を解いて」  鳥籠に囚われているような息苦しい生活から抜け出して、もっと自由になりたい……ヒカリの願いはそれだけだった。 「そんなことでいいのか?」 「もちろん。僕はあなたの愛人のように強欲じゃないし、散財癖もないもの。あなたの負担になりたくないんだ。この家の財産は僕のためなんかじゃなく、あなた自身のために使えばいい」  菩薩の如き神々しい笑顔で話すヒカリに、キョウジは感極まった。 「あぁ……ヒカリ……」  それ以上、言葉が出てこない。  今まで散々虐げられてきたにも関わらず、自分(キョウジ)のことを考え、負担になりたくないからと言ってくれるヒカリ。 ――こんな素晴らしい人間に、俺は今までなんてことをしてきたんだ。  本日何度目ともつかない激しい後悔が、キョウジの胸に去来する。 「僕を、自由にしてくれる?」 「もちろんだ。気軽に外出してもいい。そうだ、一緒にスマホとPCを買いに行こう」 「本当!? ふふっ、ありがとう! キョウジさん」 「じゃあ……」 「約束通り、イかせてあげるね! 特別にナカに入れちゃうぞっ」 「本当かっ!!」  ヒカリのナカに入れる……そう思っただけで、キョウジの怒張がさらに嵩を増す。  しかし。  再び部屋の隅へと移動したヒカリの手に、またもや見慣れない物体が握られている。 「……なんだ、ソレは」 「キョウジさん、見たことない? これはね、オナホだよ」 「オナホ!?」  円筒形をした肌色の物体を見せつけながら、ヒカリは楽しそうに説明しだした。 「ネットで人気ナンバーワンの、オナホの満子(まんこ)ちゃんだよ! キョウジさんに喜んで欲しくて、ボンテージと一緒に買ってみたんだ」 「“みたんだ”じゃねーよ! お前のナカに入れるんじゃないのか!?」 「だからー。僕には魔羅鬼くん二号がいるって言ってるでしょう? 小枝に興味はないんだよ」 「嫌だぁっ! お前のナカに入れてくれぇっ!!」 「んもう、煩いなぁ」  ウンザリした顔で喚くキョウジを見下ろして、「えいっ!」と強引にオナホを装着させた。  シリコンのウネウネとした感触に雄全体を包み込まれて……。 「あっ……!!」  キョウジは一気に射精した。

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