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第6話

 俺の憂鬱は日増しに深くなった。   「躾けだ」 とか言って、ヤツがやたらとこの身体に触れてくる。まぁそりゃあの動画からすれば、こいつが、この身体の元の持ち主が男に犯られてイかされた経験があるから、今さらってこともあるかもしれんが、俺は生憎、男に犯られたなんて経験は無い。  ある意味、この身体の持ち主だってトラウマになるような経験だ。そういう意味では、ソフトにスキンシップして少しも過去を書き換えて受け入れ易くしてやってるつもりなのかもしれない。  それにしてもアレは非道い。おそらくはしばらく前の画像だろうが、誘きだしてレイプさせて、脅しのネタにするなんざ、男のやる事じゃない。 「何を考えてるんだ?」  ミハイルの手が胸の突起を指先で押し潰した。思わず喉がせり上がる。分厚い舌がもう片方を舐めて、軽く歯をたてる。 「や...あっ...」  ぞくぞくっと背骨をかけ上がる異様な感覚に身を捩る。俺は荒い息を吐き、ミハイルの顔を見上げる。欲情に濡れた雄の眼が俺を見据える。 「あ.....んたが、なんで男の俺なんかに、そんなこと......するのか、わから.....ない」  両手で、みっしりと筋肉の乗ったミハイルの身体を押し戻そうとするのだが、いかんせんこの身体は非力過ぎる。じたばたと足掻きたくとも、下手に力を入れると脚に激痛が走る。上半身をがっしりとした腕に抱えられ、噎せかえるような雄の匂いに目眩がしてくる。 「女にとって抱かれることは当たり前過ぎるからな。組み敷く側の男が組み敷かれる屈辱と快楽に堕ちる様は、遥かに淫靡で快感を強く感じる。特にプライドの高い、男としての矜持の強いやつはな」  じっと、ミハイルの猛獣の眼が俺の眼を捉える。今にも貪り喰われそうな凶暴極まりない目線に絡め取られ、俺は底知れない恐怖を感じていた。命を失うそれとも、身体を切り裂かれるそれとも違う。自分の中の奥深くにある何かを引きずり出され、得体のしれないものに作り替えられる『未知』に対する恐怖が、俺の内に沸き起こっていた。 「最低だな、あんた........うっぁ」  身動ぎ程度の抵抗でもいい、なんとかヤツの腕から逃れたかった。そんな俺の焦燥を楽しむようにニヤニヤと笑いながらヤツは俺のモノを弄んだ。デカい手に握られ扱きたてられ、熱い口の中でしゃぶられ吸い上げられて、堪らずに俺がイクと、俺が吐き出した精液を指に掬いペロリと舐めた。 「濃いな。いい味だ。君も味わえ」 と俺の口をこじ開けて、舌にそれを擦り付けやがった。そればかりか..... 「君だけが気持ち良くなるのは不公平だ。私にも気持ち良くしてもらわないとな」 ミハイルは俺の髪を鷲掴み、ヤツの逸物を俺の口にねじ込み、喉奥を犯し、射精した。 「一滴残らず飲み干すんだ」  苦しさと気持ち悪さから咳き込み、吐き出そうとする俺の耳許でドスの効いた声で囁き、脅した。時には鼻を摘ままれ、折れた肋骨を掴まれ、苦しさのあまり咽下するまでギリギリと力を込められた。  ヤツはほぼ毎日のように部屋に来ては俺を苛み、弄んだ。夜にはバスルームに連れ込まれ、身体を洗われながら弄ばれた。浴室に嵌め込んだ大きな鏡の前でなぶられる度に、惨めさと凄まじい違和感に苛まれた。俺はこんなに華奢じゃなく色香もなく、ましてや男に弄ばれて悦ぶような柔弱なやつじゃない。 「あ.....あっ、そこ嫌っ.....」  ヤツは戸惑いながら快感に身を震わせ顔を歪める俺を鏡越しに愉しそうに眺めながら、俺の後ろにまで手を伸ばす。  「いい.....の間違いじゃないのか?こんなに美味そうに咥え込んで締め付けてるぞ」  長い形の良い指を俺の後孔に潜り込ませ、肉襞を逆撫でするように擦りたて、抉る。ヤツの指が出入りする度にいやらしい水気を帯びた音が浴室中に響き渡る。 「だいぶ柔らかくなったな、もぅ三本も呑み込んでるぞ」  ヤツは俺の中でからかうように指を遊ばせ、敏感なところを押し潰し、俺が背中を仰け反らせるのを楽しげに眺めている。目の前にチカチカと火花が散り、視界が揺れて真っ白に塗り替えられていく。 「ああっ....あっ.....あひぃ......いやっ!」 「指だけで、イケ!」  ヤツの指で敏感なところを激しく掻き立てられて、俺は前に触れることも触れられるなく二度目の吐精をした。 「気持ち良かったろう?中イキは。しっかり身体で覚えさせてやる。中でなきゃイケなくなるように.....な」  冗談じゃない。そんなこと覚えたくない。第一そこは排泄器官だ。性器じゃない。 「もう少し、傷が治ってきたら、コイツをぶち込んで可愛がってやる。コレ無しじゃいられなくなるように、な」 ―止めてくれ...―  俺は腰をガクガクと震わせ、肩で大きく息をしながら、鏡越しにヤツを見る。残忍で好色な獣.....金髪の体毛に覆われた肢体はまんまライオンのようにさえ見える。  こいつに食われるなんざまっぴらごめんだ。俺は女じゃない。挿入(いれ)られて悦ぶようなそんな惨めな生き物じゃない。  ふとミハイルが俺に自分のモノを握らせた。指が回りきらないくらいに太いそれは、猛りきって天を突き上げている。鏡に写った長大な凶器のようなそれを誇るように見せつけられた。   前の身体の俺もそこそこだったが、それよりもデカい。この身体のそれと比べたら二倍の太さはありそうだ。そんなものを突っ込まれたら、絶対壊れる。  青ざめて身を震わせる俺の横顔を愉し気に見下ろし、ガチガチに硬直したそれを握らせた俺の手ごと、自分の手で包んで、雄茎を扱きたてた。ヤツのモノの熱さと堅さが伝わり、俺は狼狽した。 ―こんなもんを突っ込むつもりか― 心底、恐怖を感じた。と同時に原の内から得体のしれない熱が沸き上がってきた。  かっ.....と顔が熱くなった。 「うっ.....」  ミハイルは小さく呻き、勢いよく大量の精を放った。 「早く孕ませてやりたい.....」  俺は真剣に総毛立ち、逃げられない身体を抱えこまれ、唇を塞がれたまま、恐ろしさに固まっていた。  だが、半ば他人事のような気がしていたのは、まだ鏡越しの身体が『他人の身体』だったからだろう。  だから、ミハイルが、―これは邪魔だな―と言って腋毛や体毛ばかりでなく胯間の下萌えを脱毛するように執事に命じた時も、ショックではあったが、諦めがついた。 ―これは俺の身体じゃない.....―  いつかは自分の身体に戻れる。  そんな淡い期待が何処かにあった。

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