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第41話

ー胸くその悪い野郎だったぜ.....ー  俺達は深夜のうちにホテルに戻った。俺は長袍を脱ぎ捨てシャワーを浴びて入念に返り血を洗い流した。出来ることなら、あいつの、この身体の持ち主のためには血で汚したくは無かったが、あいつ自身の心が人の血で汚れるよりはマシだ。俺の身体に入っているとはいえ、あいつはまだ青二才のガキだ。世間なんぞこれっぽっちも知らない。だから、あの変態野郎の餌食になっちまった.....。  物思いに耽っている俺の背後で、ふと気配が動いた。 「入ってくんなよ.....」   肩越しに確かめる必要もなく、ヤツ...ミハイルだ。今の俺より30センチ近く高い背丈、二倍はありそうな身幅、逞しい胸板、太い腕や脚、タテガミのような金色に輝く体毛.....そして俺のよりも遥かに立派なアレ.....明るいルームランプの下で誇示されて、俺は正直凹んだ。  前の俺なら敵わぬまでも張り合える自信があったが、今は欠片も無い。    俺は背中から抱きついてくる腕に眉をしかめ睨んだが、ヤツがそんなことを気にするわけもない 「無事を確かめないとな.....」 「あんな雑魚相手に、かすり傷のひとつでも負うと思うか?」  俺がムッ.....としてそっぽを向くその顎を捕らえて、ヤツが耳許で囁く。 「勿論、お前がヘマをやるとは思ってはいない。私が心配しているのは、こっちだ.....」  ヤツの唇が俺の悪口を塞ぎ、大きな手がスルリと股間に伸びた。ヤツの手は体格に見合って大きく、今の俺の身体の小ぶりなそれは袋の付け根のあたりまであっさりと包まれてしまう。  やんわりと揉みしだきながら、ヤツが囁く。 「貞操は無事だったか?」 「あのなぁ......」  俺はヤツの巧みな指使いに息を乱し、逞しい胸板に身体を預けるように凭れた。腹の奥底から沸き上がる熱に崩れ落ちそうになる身体を支る腕に縋り、上目遣いでヤツを睨む。 「知っているくせに...盗聴器、付けてたんだろ?」 「気づいてたのか?」 「タイミング良すぎだろ.....何処に付けた?」  口を尖らせてボヤく俺にヤツはくすりと笑った。 「長袍の襟の飾りだ」 「そうか」  あっさりと口をつぐんだ俺にヤツは意外そうに片眉を上げた。 「怒らないのか?」 「セオリーだろ。あんたは俺を完全に信用してるわけじゃないし、このテの事にアクシデントは付き物だ。.......別に聞かれてマズい話をしていたわけじゃない」 「そうかな.....?」 あっさりと言い切るとヤツは不満げな口調で耳朶に噛みついた。ビリリ......と全身に軽い痺れが走り、俺は小さく呻いた。 「なんだよ.....?」 「やつに訊かれた時、私の愛人ではないと言ったろう?」 「当たり前だろ」  俺は、ヤツに一層強く俺のモノを握り込まれて、身を捩った。 「俺はあんたの愛人になった覚えはないし、あそこで、そんなことを言ってみろ?! あんたを強請るネタにされて、もっと面倒なことになるだけだろう?」 「確かに、な.....」  ヤツは空いた方の手で俺の胸を弄びながら苦笑いした。が、すぐに真顔になって言った。 「私の愛人は嫌か.....?」 「イヤだ」  俺は、きっぱりと言ってヤツを見上げた。 「ペットも辞退する」 「じゃあ何がいいんだ?......私はお前を手放す気は無いし、お前だって私無しではいられないだろう?」  ヤツの指が俺の後孔に潜り込み、容赦なく前立腺を押し潰し、擦り立てた。 「や....めろ...バカっ!.....あっ.....あぁっ!」     俺はヤツに抑え込まれたまま、腰をくねらせて喘いだ。 「パートナー.....なら.....ビジネス.....パートナー...なら...いい。......あっ...あひっ....」 「パートナーか.....」 「そ......うだ.....。どう....せ、あれ....で済ませ...る気は...無い.....だろう?」  ヤツの狙いは、凌征会....と言うよりレヴァント-ファミリーにとって目障りな存在、アジアン-シンジケートを牛耳る催伯嶺....の筈だ。  上目遣いに窺うヤツの顔が何だか明るくなったように見えた。 「良くわかっているじゃないか、パピィ。......お利口さんな良い子には褒美をやらなきゃな」  ヤツはニヤリと笑い、俺を抱き上げた。 「犬扱いは止めろ!......降ろせ!.....馬鹿っ!」 「犬は人間の最良のパートナーだ。間違ってないだろう?」  ヤツは、ふてぶてしく笑うと、そのまま浴室から連れ出し、ベッドに放り投げた。 「ラウル、お前の吠える声も啼き声も、とても可愛くて、私は気に入ってる。つまらない会合で疲れた。癒してくれ......」 「.........この変態!!」  結局、俺は翌日、出発の時間までベッドから起き上がれなかった。それでも、ミハイルに押し倒され、撫で回され、ヤツのモノを咥え込まされても、あの男のような不快感を催さないのが不思議だった。  たぶんそれは、俺を抱くときのヤツの眼差しが真剣過ぎるほど真剣だったからかもしれない。  その間にニコライが大層な仕事を済ませて、凌征会を壊滅させるお膳立てをきっちり済ませていたのには驚いた。 「それぞれがそれぞれの仕事を全うするのが、ベストです」  というニコライの澄ました顔には腑に落ち無いものはあったが、とりあえず、俺は『次の仕事』のためにミハイル達と共にロシアに戻った。  

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