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第43話
「凌征会の頭(トップ)が高飛びした」
そう聞いたのは、俺が高瀬歩を殺ってから三月ほどだった。高瀬歩を殺った濡れ衣を着せられた凌征会のチンピラは、警察に引っ張られる前に覚醒剤の過剰摂取で死んでいた。
『消したのか?』
と訊くと、ミハイルは平然と言った。
『以前からひどいヤク中だったらしい。量の判断がつかなかったんじゃないか?』
まぁヤツにとっては造作も無いし、関心も無いだろう。普通に後始末をしただけだ。そいつのモバイルには、若頭から高瀬を消せという会長からの指示が残されていた.....という。
高瀬歩の遺体は未だに発見されてはいない。故にアリバイが成立しない。だけでなく、田山組との抗争でその若頭も死んでいる。
「検察に追われているらしいし、田山組もヤツを探している。大規模な麻薬取引を検察にリークされて被害を被った.....という理由でな」
「ヤクの取引の相手は崔ファミリーか?」
「勿論。末端だがな」
ミハイルはさりげなく『次』の下準備にかかっている。俺は改めてヤツの恐ろしさ.....というよりも『格』の違いというやつを痛感させられた。と同時に、気になることを思い出した。
「なぁ、高瀬諒の妹はどうした?.....その.....無事なのか?」
ヤツはあぁ、と軽く頷いた。
「なんとかな。.....兄貴の飛び降りの直後から、様子を見張らせていた。......歩から守るように保護者にも強く言っておいた」
「凌征会は?」
「警察と地元の田山組系の奴らが張っていたから問題はない」
「そうか.....」
おそらく、それは嘘だ。.....と俺は思った。俺の表情を読んだのか、ヤツは溜め息混じりで囁いた。
「心配するな。高瀬物産の次期社長だ。ちゃんと保護している」
「ならばいい.....」
方法はいい。無事であってくれるなら......俺はほっとして、ついヤツの肩に頭を寄せてしまった。
ーヤバい、しまった...ー
と思った時には、がっちりと頭をホールドされてしまった。ヤツは、何気にニヤつきながら、俺の頭をくしゃくしゃと撫で回した。
「優しいなお前は。やはりヤクザには向かない」
「なんだよ?!」
不貞腐れる俺に、ヤツは苦笑いして言った。
「昔もそう言ったはずだがな.....」
「昔?」
「まぁいい......」
ヤツは言葉を切ると、むくりと身体を起こして俺に覆い被さった。
「珍しく懐いてきたんだ。ご褒美をやらないとな......」
「やめろ....!......あん......っ.....」
俺の首筋にひんやりとしたヤツの唇が触れる。分厚い舌に舐め上げられて、背中がゾクリと震える。
「可愛いな、お前は.....」
ヤツの指が俺の股間に触れる。ヤツの掌の熱が俺の身体の奥底に火を点ける。
「イヤ....だ.......もぅ.......ぁっ....あぁっ....」
ヤツは俺の胸の突起をきつく吸い上げ、軽く歯を立てて、ニヤリと笑った。
「感じてるくせに.....」
「感じて.....なんか......あぁっ......あぅ....あんっ.....」
ヤツの手に巧妙に刺激されて俺は堪らずに腰をくねらせた。身体の芯から熱がじわじわと広がって俺を呑み込んでいく。ヤツの指が股間から後孔へと移り、くぷり.....と潜り込んだ。
「やめ.....イヤ......あっ.....ひあぁっ.....」
イタズラっぽく襞の中を蠢き回る指の動きに俺は腰を揺すり身悶えた。きゅ.....と前立腺を強く圧されて、背筋が跳ね上がる。
「欲しいか?.....」
ヤツの熱い息が耳にかかり、俺の理性を蕩かしていく.....。俺ははぁはぁと荒い息を吐きながら、ヤツのブルーグレーの瞳を見つめる。氷の耀きの奥底に、焔が揺らめいている。
「......欲し...い.........あんっ......あぁっ」
俺の内の指の動きが一層激しくなる。俺はヤツの背に縋りつき、あられもない言葉を口にする。
「挿れ....て........」
ヤツは満足そうな微笑みを洩らすと、俺の両脚を肩につくくらいに深く折り曲げた。
「いい子だ......」
ヤツの剛直が圧し充てられ、容赦なく俺の内臓を押し上げる。苦しさと快感が一気に押し寄せ、俺はぽろぽろと生理的な涙をこぼす。
「ラウル.......私のものだ......永遠に...」
最後の言葉は甘い吐息と口づけに溶けて、俺にはよくわからなかった。俺は俺を浸潤していくヤツの熱と薫りに酔い痴れ、欲望のままに身を揺すり、ヤツを貪り、愉悦に溺れた。
ーーーーーーーー
「香港に飛んでもらう」
ヤツは身支度をしながら囁き、俺は朧な意識の中で頷いた。
「その前にピアスを空けよう。......私の可愛いパピィ....きっと良く似合う......」
数日後、俺は盗聴器付きのブラックダイヤモンドのピアスを付け、香港国際空港に降り立った。
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