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第52話

「ひとりにしてくれ.....」  サンクトペテルブルクのミハイルの邸宅ー実はここがヤツの本拠地らしいがーに戻った俺はとにかく混乱していた。ヤツが俺のために用意していたという部屋に籠って頭を抱えていた。  レイラのことは、いい。彼女は言葉には出さなかったが、俺が堅気になってくれるのを希んでいたし、たぶん俺にはそれは出来なかった。 俺は彼女を愛してはいたが、いつか堅気の奴と幸せになって欲しいと思っていた。 『最適解だよ....』  アイツの言葉が頭を過る。そうだ、問題はアイツだ.......。 「落ち着いたか?」    コンコン......と軽いノックの音がして、『問題』が顔を覗かせた。俺は少しだけ顔を上げてヤツを斜に睨んだ。 「学者になったんじゃ無かったのかよ?!」 「なりたいとは思ったが......事情が許さなくてね。それに、学者じゃ天女は捕まえられない」 「お前なぁ.....」  ヤツはツカツカと歩み寄るとベッドの俺の脇に座り込んだ。 「怒ってるだろうな?」 「当たり前だろ!」  俺は呆れてヤツの顔を見た。ヤツは困ったような表情を作って、言った。 「お前の女のことは....あれが精一杯だ。彼にはウチの支社に入れるように手配してある。当面は修行が必要だがな」 「彼女のことはいい......俺が怒っているのは、そこじゃない!」 「じゃあ、何だ?」  知らばっくれるヤツが心底憎たらしく見えた。 「何で最初から言わなかったんだよ!?」 「何を?」  しれっと訊くヤツに俺はますます混乱してきた。 「だから.....俺は友達だと思ってたし、お前がマフィアの跡継ぎだなんて知らなかったし....」 「私は跡を継ぐ気は無かった。お前が香港マフィアの幹部の倅だと知って、気が変わった」 「ちょっ......俺のせいだって言うのかよ?」 「そうは言っていない。背中を押してもらっただけだ。いずれ継がなきゃならないこともわかってはいたからな」  ヤツは溜め息混じりに言って、俺の顎を掬い上げた。 「男は強くなきゃいけない....って言ったのはお前だ」  ヤツの唇が俺の唇を塞ぎ、そして鍛え上げた両腕が俺をベッドに押し倒した。 「欲しいものがあるなら力ずくでも手に入れる。........マフィアというのはそういうもんだろう?」 「だからって......俺は女じゃない!お前だってそんな事は言って無かった」 「私はお前を失いたくなかった。あの時、私が告白していたら、お前は拒絶しただろう?」  俺は返答出来なかった。是非の前にそんなことは考えてもみなかった。 「恋をする相手が異性とは限らない。.....恋愛自体が苦手だったお前には想像もつかなかったろう?」  それはそうだ。告白してきた女もいたが、俺は極道だ。おいそれと乗っかって相手を不幸にするわけにはいかないし、第一扱い方がわからなかった。レイラはそんな俺を見かねて、優しく手解きしてくれた、いい女だった。 「だから安心してたのに....」 「俺だって普通の男だ」  俺は口を尖らせた。が、ヤツはニヤリと笑って胸の突起を抓り上げた。思わず背中が反り上がり、声が漏れた。 「もう過去形だな、ラウル」  ヤツは俺の耳許で囁いた。 「お前は私の『女』だ。.....誰にも渡さない」 「てめっ........あっ.......あうっ....」  ヤツは俺の胸をきつく吸い上げ、スラックスの中に手を潜り込ませた。 「可愛いラウル.....。ちゃんと帰ってきてくれたら、ずっと友人で我慢するつもりだったのに...」 「な.....あっ.....やめ.......あんっ!...」  ヤツの手が俺の括れをきつく握り、指先が先端をこじ開けた。俺は身体を戦慄かせ、ヤツを睨み付けた。ヤツは俺のモノを弄びながら、平然と言った。 「お前は私との約束を完全に忘れて、私の再三の誘いにも一向に応じなかった」 「それ.....とこれ.....とは話が違う......だろっ!....あんっ!......ひあっ.....あっ.......」 「そうだ。お前は組織のことしか考えていなかった。私はそれが許せなかった。だから、私はお前から組織を取り上げた」  ヤツは俺が達してしまったことを察すると、満足気な笑みを浮かべ、俺のスラックスと下着を一気に引き剥ぐと、既に蠕動し始めたそこに潜り込ませた。俺のそれは美味そうにヤツの指に絡み付き、ひくひくと脈動してヤツを強請っている。 「気持ちいいか?.....ラウル、お前は私との約束を守らなかった。だから、これは罰だ」 「そ......んな.......あっ.....ああっ.....ひんっ.....」  ヤツに容赦なく前立腺を擦り立てられ、俺は身を捩り、腰をくねらせた。甘い痺れが全身を包み、体の芯から一気に熱が噴き上がる。 「欲しいか?......もぅ逃がしはしない。私の可愛いパピィ........お前は私だけのものだ」  ヤツの指が二本になり、三本に増やされ、俺の内を責めたてる。俺は身悶え喘ぎ、啜り泣きながら、アイツの顔を思い浮かべていた。善良で穏やかな横顔.....あの日の今にも泣き出しそうな微笑み.....。 ー変えてしまったのは.....ー 「済まない.....俺のせい.....だ」  ヤツの頬が、ぴくりと震えた。俺はヤツの頭を掻き抱き、精一杯の優しさで囁いた。 「俺は......お前のものだ。........来て....俺の中を満たしてくれ.....」  ヤツの逸物が俺の最奥に突き立てられ、俺は淫らな声をあげてヤツに縋りつき、身をよじる。ヤツを全てを変えてしまったのは俺自身だ。俺はその事に咽び啼きながら、達した。  ヤツは俺の中に何度も放ち....何度も呟いた。 「愛してる...愛してる、ラウル...」  俺はヤツの中のアイツを抱きしめて、泣いた。  思いのたけを打ち撒まけた後、ぐったりと横たわる俺の髪を愛おしげに撫でるミハイルは名前どおりの大天使のようだった。 「なぁ、ミーシャ.....」  俺は少しだけ意地悪く訊いた。 「俺があの時、死んじまってたらどうしたんだ?」   「そうだな.....」  ヤツは少しだけ考えて言った。 「香港を沈めて、修道院にでも入ったかもな.....」  やっぱり、お前の『愛』はヤバすぎる.....。

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