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第68話
邑妹(ユイメイ)が姿を消してから、ミハイルが苛立ちを隠さない日が多くなった。
俺は矢も盾もたまらず、ニコライにこっそり訊ねるのだが、ニコライは
ー行方はまだ掴めていないー
と相変わらずの無表情で、淡々という。
そして、そういう日には決まってヤツの八つ当たりに遭う。
「あ...あんっ.....あぁあ....あぁんっ.....」
その日も、ミハイルはすこぶる不機嫌で、俺を自分の腹の上に跨がらせ、自分でイクまで腰を使え......と命令した。
俺は自分の後ろに自らヤツを迎え入れさせられて、恥ずかしさで真っ赤になりながら、ヤツを貪っていた。
「ちゃんと、自分でイイところはわかってるだろう.....手を抜くな」
ヤツは下から俺を激しく突き上げながら、冷ややかに言う。
「やっ.....あひっ!.......てめ.......あっああっ!」
俺はヤツの凶器を奥まで咥えこまされ、抉られ、擦り立てられて、目の前で幾度も光が弾けて、頭の芯が焼け焦げてしまいそうだった。
「お前の内は熱いな....。それに私のモノにぴったりと絡みついてるぞ。そんなに美味そうに咥えていて、まだ意地を張る気か?ん?」
ヤツの両手が、がっしりと俺の尻を掴み、揺さぶる。猛りきったモノに容赦なく腹の中を掻き回され、俺は身も世も無く快感に喘ぎ、啜り啼いた。
「や....だ...おかしく....なる.....。も....許し....て。出し....た.....い」
「ダメだ。.......後ろでイけ、そう教えてるだろう!?」
ヤツの目に冷たい昏い焔が揺れる。ヤツの欲情が、情念が、俺の腹の奥の熱を更に激しく煽りたてる。
「や....だ..;....あっ...あっ......あああぁっ...あひっ...ひっ.....イ...ク....ミー...シャぁ...あっああっ!」
ヤツの手にモノをきつく握られ、ブジーを入れられたまま、俺は敏感な部分を容赦なく擦り立てられ、身体の奥を突き抜ける稲妻に大きく身を震わせて、達した。
だが、ヤツは俺の腰を抑えつけ、なおも俺を揺すぶり続け.....俺は駆け巡る熱に身悶え、よがり狂わされた。
視界が真っ白になり、理性が完全に吹き飛ぶまで、後ろを犯され、やっと逐情を許された頃には、俺の意識は飛ぶ寸前だった。
ヤツは視界の合わなくなった俺を抱き寄せ、自分の身体の下に組み敷いた。
「......お前は私のことだけ考えていればいい。......邑妹(ユイメイ)は私達が見つけ出す。お前は余計なことを考えるな」
冷酷無比な魔王の顔を覗かせて、ヤツが囁く。冷たい響きの内に灼熱が隠る。
「そんな......そんなこと言っても...」
反駁する俺に、ミハイルが口を僅かに歪めて、笑った。
「この部屋には24時間、監視カメラとボイス-レコーダーが設置されているのは知ってるな」
耳許で小声で囁くミハイルに俺は頷いた。俺の安全を守るため.....と言いながら、実際には勝手に余所の人間と接触したり、逃げ出さないよう監視させている。俺はこの部屋に飼われているヤツのペットだ。言い知れない失望が沸き上がる。が、次になお声を潜めてヤツが口にした言葉に俺は目を向いた。
「.....つまり、他の誰かが何かを仕掛けても一目瞭然ということだ」
「......?!」
失せかけていた意識が、一気に戻った。大声を出しそうになる俺に、ヤツは唇に人差し指を立てて、続けた。
「マイクロカメラが仕掛けられている。盗聴器も」
「......んな、誰が?」
「メイドのひとりが掏り変わっていた。.....もぅ抑えたがな」
ミハイルが俺の背後の小物入れを見た。そう言えば見慣れないと言えなくもない。
「お前の素晴らしい姿を見て、あいつは今頃、頭から火を吹いてるだろうな」
誰.....とは言わずもがなだ。最近、やけに激しいとは思っていたが、俺は呆れてものが言えなかった。
「煽ってどうするんだ...」
ヤツの耳許で抗議する俺に、ヤツはニヤリと笑った。
「誘き寄せる.....」
そして、今までとは打って変わった、はっきりとした大きな声で言った。
「結婚しよう。.....何処かの小さな教会で式を挙げよう。田舎の小さな教会で....」
呆れてあんぐりと口を開けた俺に、ミハイルの眼差しが命じた。
「は、はい.......」
言ってから、俺は後悔した。崔に見せつけるため、誘き寄せるためというのは口実に過ぎない。上目遣いで窺うとミハイルがとんでもなく嬉しそうな顔をしていたからだ。
ーこいつ、マジか.....ー
盗聴器と盗撮カメラを前に問い質すわけにもいかず......結局のところ俺は再びヤツにのし掛かられて.......次に気づいた時には、テーブルの上に取り外された極小の精密機器が二つ転がっていた。
ーあンの野郎......ー
俺はますます崔が憎たらしくなった。
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