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第81話
嫌な予感てのは当たるもんだ。
長いロシアの冬が終わり、雪解けを迎えた頃、俺は崔があまりに静かなことにひどく胸騒ぎを覚えていた。邑妹(ユイメイ)の居所もわからないまま時は過ぎ.....俺はせめてもの気休めにイリーシャに頼んで、防弾機能を有した薄手のインナー-スーツを調達した。ミハイルは俺が単独で戦うことを絶対というくらい好まないから、ヤツが不在になると戦闘体制が取れない。なので、万一に備えて、ロシア諜報局から、最新のインナースーツを借り受けてもらった。元々レヴァント-ホールディングスの作っている軍用品なのだが.....。
『一つ問題があってな....』
イリーシャは二着のスーツを俺に手渡しながら言った。
「あんたの体型だと女物しかないんだ....』
『あ?』
『つまりな......胸がな、余ると思うんだが....』
確かに俺はミハイルやイリーシャから比べると華奢ってやつだが、女物というのは少しショックだった。
『いいさ。仕込むから...あるんだろ?手榴弾』
イリーシャは小さく肩を竦めて笑い、翌日には小ぶりだが高性能な手榴弾を調達してきてくれた。
アクシデントが起きたのは、そんな矢先だった。ミハイルの元に西側のある国の裏社会を仕切るある男が取り引きを求めてきた。
『大丈夫なのか?』
と訝る俺にミハイルは笑って答えた。
『父に恩を受けた男だ。裏切りはしないだろう』
確かにその男は裏切りはしなかった。ミハイルが腕利きの連中とヴィボルグに発ったしばらく後だった。ニコライがトレーニングルームに真っ青になって駆け込んできた。
「大変です!ラーツィの遺体が湾に...」
ラーツィというのは、ミハイルの取り引き相手のボスだ。
ー嵌められた!ー
誰もが気付いた。黒幕は...
ー崔だ!ー
「ミーシャに連絡は ?!」
「繋がりません。.....おそらく妨害が」
チッ....と舌打ちして、俺はニコライに言った。
「妨害電波の出所を探して潰せ....俺はヴィボルグに向かう。イリーシャ?!」
イリーシャはワイヤレスで誰かに早口で喋っていた。そして俺の方を振り向いた。
「準備をしろ。パピィ、狩りの時間だ!」
俺はインナー-スーツの胸元に手榴弾を二つワイヤーで仕込み、レザーパンツとジャケットを着けた。ハンドガンは2丁、パンツのサックにフルに刀子を仕込む。ワイヤレスを片方の耳にセットして、モバイルの音声を拾い、ウォッチ型のレシーバーでGPS を追う。
「行くぞ!」
外に出た俺を待っていたのは、ショットガンとアサルトをセットしたハーレーのFLSだった。イリーシャの投げたフルフェイスのヘルメットを受け取る。
「こっちの始末がついたら、すぐ追います」
俺はニコライの言葉に頷き、イリーシャの後ろに跨がった。
「頼んだぜ!」
イリーシャがエンジンを蒸かし、1500CCのマフラーが唸る、と同時にハーレーは、ゲートを飛び越し、一気に夜のアスファルトを南へ走り出した。
ー待っててくれ、ミーシャ!ー
逸る俺を宥めるようにワイヤレスからイリーシャの声が言った。
「焦るな、パピィ。ミハイルは大丈夫だ」
バイクのミラーに次々とヘッドランプが映り、増えていく。
「お前の『チーム』だ。指示を頼むぜ」
俺は頷き、雄叫んだ。『イージー-ライダー』の主人公のように。
「ヴィボルグへ!、疾ばせ!」
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