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ミハイルside 7~突入~

 ラウルの略奪から奪還に向けての準備が整うまで、約一月近くの時間を要した。邑妹(ユイメイ)やエージェントからラウルの異常はしらされなかったし、GPSは正常に作動していたが、『性能チェック』の名目で、ベトナム海軍に就航した877EM潜水艦に乗り込むまで気が気ではなかった。 「ミャンマー、タイ、両国の協力を得て、ミッション終了まで、一般船舶はメコン川の航行は禁止になっています。我々が、出航して2時間後にハノイの空軍基地から戦闘機が離陸します。突入から掃討に要する時間は約2時間と見ていますので、その間にラウルさんを救出してください」 「わかった」  私は徴兵以来の軍服に身を包み、左胸を押さえた。ラウルのモバイルはバイクにセットされたままだ。リストルーターはヴィボルグの現場に落ちていた。多分、万一の場合に私の居所を探らせないために、敢えて外したのだろう。危機管理の意識の高さには頭が下がる。だが..... ー自分の身の安全を第一に考えて欲しかったー 『あなたの危機に、それは無理でしょう』  ニコライが見透かしたように言っていた。 『あの方にとっては、あなたが全てです。あなたがそうしたんです。その責任を自覚してください』  艦内のランプが点滅を始めた。揚陸艇に乗り移り、茶色く濁った河を遡上する。目標地点では白煙が上がり、既にSu-57ステルス戦闘機による爆撃が始まっているようだった。  無線からイリーシャの声が聞こえてくる。 『第一部隊は、倉庫群への爆撃を開始、エージェントによるレーダーの破壊工作も成功。我々第二空挺部隊は、パラシュート降下により、現場に突入する。河岸に装甲車両を降ろすから、それを使え」  見上げると、巨大な軍用ヘリコプターMi-26 が私達の頭上を追い越していった。 『演習』どころの話ではない、まさに『戦争』だ.....。    ロシアの海-空軍の協力を得て、崔のアジトに突入を果たした私は、一目散にラウルの囚われている崔の私邸を目指した。空挺部隊はイリーシャの指揮の元、崔の部下達を制圧し、陽の当たらない半地下になっている収容棟から多くの子ども達を救い出した。  同時に、『迎賓閣』と称された建物で売春を強要されていた男女とその客達を『保護』したと連絡が入った。その中にラウルがいなかったことに、私は胸を撫で下ろした。救出した子ども達と売春させられていた男女、それと『客』達の処遇は、私に任された。  慎重に用心深く『私邸』の奥深くに進む。崔は要塞の中枢にあたる指令棟にいるという報告が入っていたが、油断はできない。  一刻も早く、ラウルを見つけ出さねばならない。.....と、無機質なコンクリートの壁がパインウッドの木の壁に変わった。私は後ろに付いてきた部下に合図した。  サイレンサーの抑えた音が響き、どさり...という音が聞こえた。 「見張りがいました。おそらく.....」  私は部下に小さく頷き、用心深く扉を開けた。 「ラウル....!」  私の天女が...まさに天女の姿に戻って天に飛びたたんばかりだった。 「待たせたな.....」  逸る心を抑えて呼び掛けると、私の天女は、ラウルは目に涙をいっぱい溜めて走り寄り、私にキスした。 「遅いぞ、ミーシャ.....!」  私は渾身の力を込めて、彼を抱きしめた。

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