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終焉 ④★
「井上、起きて」
キスを止めて井上に伝えると、井上は大人しく起き上がった。井上の後ろに周り、再び座り込む。後ろ手に井上を引き寄せて、抱き締めた。腕の中で井上が振り返った。
「桜井……? あっ……」
振り返った井上の右耳に少し乱暴にしゃぶりついた。遠慮なく舌で舐め回す。同時に後ろから手も這わせて再び井上の胸を攻めた。
「ん……あ……」
「服全部脱いで、脚開いて」
耳元で囁くように伝える。分かりやすく井上の耳が赤くなった。
「……恥ずいんだけど……」
「なんで? いつも開くじゃん」
「だけど……明るいし……ベッドでもないし……それに……」
そう言って井上がちらっと前方を見たのを見逃さなかった。
「……井上、鏡に映るのが嫌なの?」
「……めちゃめちゃ正面じゃん」
「いいじゃん、別に」
「いや、だって、俺の股開いて喘ぐ姿なんて見たくないし」
「俺、見たい」
「……直接見たらいいじゃん」
「違う。股開いて喘ぐ自分の姿を鏡で見てる井上が見たい」
「……変態」
「なんでもありじゃん、今日は。だって……」
続きを言いかけて思わず止めた。
だって。最後だから。
「…………」
井上が前を向いたまま黙った。鏡越しに笑顔のない井上の顔が見えた。少し黙った後、井上がおもむろに脱げかかっていたジーンズを下着と一緒に引きずり下ろした。靴下もさっさと脱いで脇に投げ置いた。そして桜井の胸に体を預けて両脚を開いた。
「……これでいいか?」
言ってしまいそうになったことを後悔した。そんなこと言わなくても。どうせ終わるのだから。まるで自分がそれを理由に井上に無理を強要しているような気がした。嫌だとは言えない井上に。
「……やっぱ、いい。ベッド、行こ」
「……なんで?」
「だって、嫌だろ? 井上」
「……いいよ」
「え?」
「嫌じゃないから」
「だけ……」
井上が顔だけ振り向かせて、言葉を発していた桜井の唇を塞いだ。
もう、なんにも言うな。
そう言われている気がした。そのまま舌を絡ませて、再び井上の体へと手を這わせた。左手は胸を攻め、右手は井上の股へと伸ばした。内腿をゆっくりと撫でた後、井上の自身を掴んで優しく愛撫した。
「はっ……あっ……」
執拗に愛撫を受けていた井上の体は少しの刺激でも敏感に反応した。桜井が首筋に舌を這わせる度。左手で胸の突起を転がす度。右手の指先で先をゆっくりと擦る度。井上の体はびくびくと小さく波打って、井上の口から吐息が漏れた。
両手の動きは緩めずに井上の右耳を再び舌で舐め回しながら、ふと前方に立てかけてある姿見を見た。
鏡の中の井上と目が合った。見つめ合ったまま、桜井は両手に軽く力を入れた。
「んあっ、あっ……はぁっ……」
いつもの井上なら。桜井が強く攻めるとその攻めに耐えられなくなって逃げようとすることが多いのに。
井上は声を上げながらも桜井から目を逸らさなかった。快感に耐えるというよりは。まるで何かと戦っているかのように。挑戦的な視線で。
その視線に負けず嫌いな桜井の征服欲が掻き立てられた。
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