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うらみはきだすさかさうた:01

目覚めはいつも良い方じゃない。 たぶん、血液と栄養が足りていないのだ、と思う。いつもふらふらとしていたし、頭が痛いのは当たり前で、起きていてもそんな状態なのだから、寝起きは推して知るべしだ。 吐き気が無ければ奇跡で、三十分で目が覚めることなんか稀だし、目が開いてから身体を起こすまで一時間以上もかかる。 それでもボクが困らないのは、規則正しい『普通』の生活をしていないからだ。 朝起きて、会社に行く、という事がない。だからと言って、夜働いているわけでもない。夜は人通りが無くて少し安心するけれど、逆に、人ではないものが多くなる。昼間の雑踏も怖い。でも、夜の暗闇はもっとこわい。 それでも、お金が無ければ生きていけない。いくらボロボロで今にも崩れそうなアパートといっても、やっぱり、住むからには、家賃がかかる。水もガスも電気も無料じゃない。食べても無意味な事が多いけれどそれでも、食べないとやっぱり空腹とふらふらと頭痛はもっとひどくなる。 だからボクはボクにできる最低限で限られた仕事をこなすしかない。 それは特殊でかなり面倒で疲れる仕事だけれど、時間に融通が利くことだけはありがたいと思う。特に朝は、強くそれを実感する。 額の奥が、ぐうう、っと痛む。 息が浅いのが自分でもわかって、嫌だ。もうすぐ秋だけど、昼も近いせいか、じっとりと汗ばむ身体が気持ち悪い。 目を開けなきゃ、と思う。 ぼんやりと周りが見えてきて、それからやっと息を整えて、起きなきゃ、と思うのが常なのだけれど。 今日はそれどころじゃなかった。 最初は夢だと思った。でも、それにしては視界も意識もはっきりしているように感じた。 その次は、ついにボクは食べて吐く以外の霊感を身に着けてしまったのか、と思った。どう考えても、ボクが他人を部屋に上げるとは思えない。だから、ボクの部屋のテーブルの前に座り込む人の背中に、どう説明をつけたらいいのかわからなかった。 幽霊だと思うしかない。でも、その割に、僕の口の中にあの吐きそうな腐った肉のような味が広がる事もない。 ……不審者だったらどうしよう。そういえば、ボクの部屋のドアは、結構馬鹿になっていて、たまに鍵がかからない。別に盗られる程高価なものなんてこの部屋の中にないけれど。それでも、命を取られるのは、今はちょっと困ると思う。 ちょっと前までは、いっそ寝ているうちに死にたいな、なんて思っていたのだけれど。 今は、ちょっと、死んだら嫌だなって思うから。だからこの背中の人が、死神とかだったら本当に困るなぁなんて、そんなちょっとどうしようもない事を考えていたのはやっぱり寝起きだったからで、そしてこの後ボクはいまだかつてない程一気に、なんていうか、高速で、目を覚ます羽目になった。 目覚めはいつも良い方じゃない。 だらだらと、一時間かけて吐き気とともに起きあがるのが常だ。 この日は吐き気はなかったものの、もうちょっとなんていうか、ああもうだめもう死にたくないけど死にたい、と思うような、目覚めだった

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