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うらみはきだすさかさうた:02
なんてーか、ちょっと悪くない反応だった。
「……っ、な……ひっ……え、ちょ…………っ!? め、めい、めい……っ」
「んだよーそんなにビビんなくてもいーじゃんっつか鍵開いててビビったのはこっちだっつの。まーまーそんな生娘みたいな反応しやがってなんなのーキーちゃんは童貞なのー?」
「どうて……いや、あの、そんな話、じゃなくて、なんでメイシューさん、が、ボクの、部屋に……」
「だっておっまえ連絡してもでねーんだもーん。用があって外出したんだけど相手方にドタキャン、ってーかまあお父様のお付きだったんですけれどおまえいーらねって言われたから暇になったのよ。でもほらー、急に出かける予定がなくなるとさー、なんかこう、家に帰ってだらだらすんのもなーって気分になるじゃん? だからめいしゅーさんはキーちゃんとご飯でもいったげようかなぁと思ってさーお前この前薄いピザ食べてみたいっつってたじゃん。あとラーメン」
「らーめん…………あー、はい、あの……そんなことを、言ったような気は、たしかにしますし、そのー、嬉しいしありがたいしご連絡を、無視してしまったのは申し訳な、……ちょ、メイシューさんなななな何し、」
「えーなんなのお前寝る時裸になるタイプなの? アメリカンなの?」
「捲らない……! 捲らない、で、くださ……っ」
うはは涙目になってやんのかーわいい、と、思っても後半の感想は言わないで笑うだけに留めた。
俺より相当デカいどう見たってかわいいなんて外見からかけ離れている男相手に、休日の真昼間から『かーわいー☆』なんて言うのは流石にどうかと思うわけだ。勝手に部屋に入って勝手に珈琲淹れて勝手に飲んでるのもどうかと思うけど。
普段ダークトーンの服ばっかり着ているし、夏も薄手のコート着込んでやがるから、寝間着もきっちり長袖なのかと思っていた。ところがどっこい俺が勝手に侵入した部屋の家主はパンイチで、薄い掛布団をぎゅっと握りしめて身体を隠すようにベッドの隅で蹲っている。
ちょっと誤解されそうな絵面ではあるが、痩せた素肌にばしばし彫られたタトゥーと赤茶と黄色の長髪のせいで、たぶん俺が加害者だと思われる事はないだろうと思う。人間何事も見た目だ。
俺こと寺の息子かつごく普通のリーマン、巻明秀と、パンイチタトゥー長髪男、刈安キイロは夏の終わりに出会った。……筈だったと思う。
それが運命だったのか別にそうでもなかったのかは知らないけど、キイロ的には運命の出会いだったらしい。今でも、信じてるかどうかって言ったら半信半疑だ。何を見せられても、自分が体験しない事は共有できない。
「つーかほんとえらいあばら家に住んでんのな……アパートっていうか廃墟じゃん。長屋っちゅーか、なんちゅーか。大家さんとか居んのこれ」
「…………一応……いる、はず、ですボクはあんまり、人とは積極的に会わないようにしているので、わからないんですけど……」
「キーちゃんは相変わらず難儀ねぇ。ところでお前そんな恰好でさむくね?」
「……さむいですけど……だって、」
いつ吐くかわからないから。
そう言われた俺は一瞬どころか数秒見事に言葉に詰まって、最終的になんかいろんなもんを飲み込んで無神経な言葉ばっか吐いててゴメンの気持ちを込めてキイロの乱れた派手な色の頭をぐりぐりと手でかき混ぜた。
「相変わらず、つか、ほんと、難儀だなぁお前……よく生きてきたよな……よしよしおにーちゃんと一緒にドーナツ食おう、ドーナツ。さっき駅前で買ってきたドーナツ食って珈琲飲んでラーメン食いに行こう」
「え。あ……はい、ええと、嬉しいです、けど、すいません……」
「あ、ドーナツ嫌いだった? 寝起きピザがいい?」
「いえ、ドーナツは食べますけど。……すいません、ラーメンの前に、ちょっと、お待たせしてしまうかもしれません」
「と、いいますと?」
「――仕事が、あって」
あー。と、俺が息を吐く。
叱られた子供みたいにこちらを窺う派手な見た目の男がどうにも痛々しい。背中や腕にバリバリ入っているタトゥーは、首から右頬にかけてもばっちり入っている。子供には見えないし善良な市民にすら見えない外見だが、やっぱりこいつは叱られた子供みたいだ。
別に友達のつもりはないし、じゃあなんだって言われてもわかんないけれど、俺がコイツの事を放っておけないのはたぶん、こいつが叱られた子供だからなんじゃないのかなーと思う。
「そんじゃあ、仕方ないよな」
ふ、とキイロの目線が下がる。泣くんじゃないかと思うが流石に成人男性だろうし我慢はしているらしい。そういえば俺はキイロがいくつなのか知らんけど。
俺はこいつの泣きそうな顔にどうやら弱いらしい、という自覚くらいはあって、でもそんなん本人にバレたくないので仕方ねーなみたいな顔して偉そうに肩をパンと叩いた。
「……終わるまで待っててやるよ」
「……………メイシューさん……っ!」
「ちょ、待ってキーちゃんお前タッパ違うんだから急に飛び掛かってくんな怖、わかったよ落ち着けよラーメン食うまで一緒に居てやるから落ち着いてまず服着てプリーズ」
犬みたいに抱き着くでっかい細い爬虫類みたいな男を押しのけながら、ちくしょうオンナノコとデートしてるやつがうらやましいけどやっぱ俺はこの鳥ガラみたいな男を放っておけないんだよなんてため息を吐いた。
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