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ことのあいまにむつみごと:01

落ち着きがない、と言われる。 勿論その自覚はあるし、なんなら落ち着きどころか常識的なマナーがそもそもなっていない、のだと思う。 そういうものが理解できないわけじゃないのだけれど、紳士的なマナーを心掛けるよりも先に、ボクには気を配らなければならないことが山ほどあった。 お皿の上のものを丁寧に綺麗に食べる事よりも、それをいかに吐かずに胃の中に収めるかということが重要だったのだから。 非常識で落ち着きがなくて変で意味不明でいつも暗くて楽しくなさそうで、何を考えて生きているのかわからない、と言われる。大概の人がそういう風にボクの事を評したのだから、たぶん、世間からボクはそういう風に見られているのは間違いない。 どれひとつ弁解できない。 落ち着きはないし非常識だし変だし自分だって自分の事がわからないと思うし絶対に明るくなんかないし、自分が何を考えて生きているのかすら、ボクはハッキリと言葉にできない。明日は雨かなとか曇りかなとか、だいたいそんな事だったような気がする。つまりはどうでもいい事で、それは生きていく上で必要でも不必要でもないことばかりだった。 今はもう少し、前向きに生きる事を実感している、ような気がする。それでもやっぱり落ち着きはないし非常識な大人なのだろうと思う。思うけれど、今口に含んだオレンジジュースをテーブルの上に思い切り噴き出してしまったのは、絶対にボクの落ち着きのなさだけが原因ではない筈だ。 気管にジュースが入って痛いし涙が出るし服にジュースがかかって冷たいし咳が止まらないし、カラオケの個室でよかったと心底思う。ソファーが皮っぽい生地だったのも幸いだった。しみ込んだオレンジジュースを一生懸命乾かさなくてもいい。 ボクの背中を笑いながら摩ってくれる人の手は、今日も暖かい。でもいつもみたいに嬉しくて泣くんじゃなくて、喉の奥の痛みでボクは涙ぐみながら、彼のにやけた顔をちょっとだけ睨んだ。 ボクは落ち着きがない。 でも、今だけは、悪いのはボクじゃない。と、思う。

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