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不穏な影 4

 緩くウエーブのかかった亜麻色の髪。色素の薄いヘーゼルの瞳。その瞳は、光が差すと緑色にも見えてキラキラと輝いていた。    日本人離れした形の良い鼻や顎のライン。そして軽く口角の上がった上品な口元。それらが絶妙なバランスで配置されているのに目を奪われた。  壮吾がつい、ぽけーっと見とれていたら、 『僕に見とれるのは仕方がないけどね、男はお断りだよ。特に君のように、平凡を絵に描いた何の面白みも無い地味な顔に凝視されるのは、実に不愉快だ』    と、美しく上品な口元からこぼれたとは思えないほど、辛辣なセリフだった。しかも先輩に対しても堂々のタメ口。  その恋人である壮吾の友人は、そんな刻に夢中だった。 『ふふ、刻くんはきっとそう言うと思ったわ』 『ああ……勘違いしないでくれたまえ。僕は生まれながらのフェミニストなんだ。君に見つめられるなら本望だよ』    尻がむず痒くなるような台詞を堂々と吐き、ぽかーんとしている壮吾の前で、カップルはいちゃついたのだった。 壮吾は呆れつつ、そんなクサい台詞も刻なら似合うと思ったし、それに、作りこまれた芸術作品のような刻の顔は、見るなと言われても目が離せなかった。  後にクォーターと判明したのだが、それが納得できた。まさに東洋と西洋の良い部分を掛け合わせた秀麗な容姿だからだ。  それでいて、男子に対しては刺々しく厳しい態度ときた。  そのギャップに、壮吾はたちまち興味をそそられた。なにより、壮吾に一切興味がないのも好ましかった。    刻の気遣いや親切心は女子だけに向けられていたから、刻に関わる男子生徒は皆無だった。    とういうより、そもそも刻の視界に男子が入らなかったのだ。  しかし一方的に慕ってくる壮吾に、次第にほだされたのか、あるいは事あるごとに妙な揉め事の中心にいる壮吾に興味を持ったのか、放っておけなくなったのか。    ――実際のところ理由は不明だが、壮吾は初対面から数か月後には、刻の友人の座に納まっていた。    

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