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不穏な影 6

 男相手は初めてだという刻は、壮吾の身体が解れるまで丹念に準備をしてくれた。  全てが初めてだった壮吾に負担をかけないよう、時間をかけてくれた。壮吾も、初めての相手が刻で嬉しくてたまらなかった。  ――でも、その後の落ち込みが半端なかったんだよなあ……  長年好きでいることをやめられない相手。    その相手に抱いてもらって嬉しくて、でも、気持ちは告げられないし、悟られぬように行為の間は気を張って……。と、まるで演歌の世界だ。      それ以来、壮吾は事件後に刻によってベッドへ引っ張り込まれるのが恒例になっている。  ただ、壮吾の知り得ない事件も当然あるから、その時は女性と過ごしているのだろう。  将来は久須美家の君主として家業に専念する身だから、いつまで探偵をやるのかは不明だが、少なくともあと数年はこの関係が続く。  先のことはわからないし、この想いを伝えるつもりもない。    そもそも、刻は住む世界の違う人間だ。たとえ壮吾が女だったとしても未来はないだろう。   ――なんだかやけに胸がドキドキしてきたなあ。アルコールのせい? もう止めたほうがいいかな    そのとき、外でゴトッと重い音がした。 テラス側の窓に顔を向ける。ふっと意識が覚醒した。    酒は普通に飲める方だが、久しぶりのワインが体内に深く浸透したのかもしれない。室内の空気も淀んでる気がして、壮吾はテラス側の窓に近づく。  カーテンを開け、鍵に手をかけたところで、違和感を感じた。掃き出し窓下にあるエアコンの室外機の横に、黒い影があった。    月明かりで逆光だが、一見人影のように見える。室内は窓横のフロアスタンドの灯りだけだがそれでも外の方が暗い。 「ひっ」  一瞬その人影と視線が合った気がして、とっさにカーテンを閉めた。    ――なんだ、今の。    心臓がドキドキしている。  酒に弱いわけではないが、慣れない高級ワインに酔いが早く回ったのかもしれない。水を飲みにキッチンへ入ると同時に、インターホンが鳴った。 「久須美か? ……やっと来たな」    無意識に安堵して、バスローブの胸元を直しつつ玄関へ向かう。  裸足のまま三和土へ降り、気が急いていたので確認もせず鍵を開けた。 「意外と時間かかったな、久須……」  少し開けたところでドアが強引に引っ張られ、押し入るように大きな身体が玄関に入ってきた。 「うわっ!」  相手が刻ではないのは瞬時にわかった。

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