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待ち人登場 5
「べつに……大丈夫だけど? なんだよ、空気が悪いなら換気すればいい話じゃん」
壮吾はテラスの窓に近づき勢いよくカーテンを開けた。すると、掃き出し窓の正面に黒い人影が立っていた。
「うわっ!」
「春井くん!」
後ずさった背中を、刻が受け止める。その不気味な黒い人影は微動だにせず、こちらにゆらりと身体を傾けじっとたたずんでいる。
「さっきのやつだ……」
また視線が合った気がした。
「薄気味わりぃ……」
思わず顔を背けると、背後から素早く刻の腕が伸びてカーテンを閉めた。
「春井くん、君、今のが見えたのかい」
「えっ、見えたよ。外が暗いからはっきりじゃないけど黒い人影が、さっきとまったく同じに見えた」
言ってからあれ? と思う。さっきと室内の明るさが違うのに、なぜまったく同じように見えたのだろう。
それに、黒いだけで目鼻立ちまで見えない対象なのに、視線が合うと感じるのはおかしい。
「身体をよく見せてくれ」
「え? ちょっと、おい!」
バスローブの前を強引に開き、刻は真剣な顔を壮吾の腹部に近づけた。
「久須美!……」
性的なものを一切含まない視線に、壮吾はおとなしくされるがままにした。背中も同じようにされ、両下肢もくまなく調べるように見られた。
「何も出ていないな……。すまない、寒かったか」
「いや、平気だけど……なあ、いったい何なんだよ」
刻は真剣な表情のまま言った。
「この部屋で生活するのは限りなく危険だということさ。春井くん、とりあえず必要最低限の荷物をまとめるんだ。しばらく、僕の屋敷で生活してもらう。とにかく、僕がいいと言うまでこの部屋には近づかないこと。いいね」
「いいね……って。いやいや、ちっともわかんねーよ。確かにさっきのは怖かったけど、危険て……」
刻はにこりともせず、真剣な面持ちで続けた。
「すぐに理解できなくとも無理はない、しかし至極真面目な話だ。……安全な場所に移動してから詳しく説明するとして、とにかく今は僕の言うとおりにしたまえ」
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