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待ち人登場 7
マンションから出ると、黒塗りの高級車がでんと停車していた。
この道は、大型セダンを長く駐車できるような道路幅はない。
おそらく他の場所で待機していたはずの島ノ江が移動させたのだろう。
しかし、刻が連絡した様子はなかったのに、このあざやかさはなんだろう。
島ノ江は相当優秀な執事のようだが、主人の身体に盗聴器かGPSでもつけているとしか思えない。
後部座席のドアを開け、島ノ江がうやうやしく一礼する。
刻が壮吾に振り返った。
「春井くん、君が先に乗りたまえ」
「ちょっ、押すなよ!」
背中をぐいぐい押され、壮悟は素直に乗り込む。刻は何か気になるのか、マンションの周囲に視線をぐるりと向けた。壮吾も気になってそちらを見る。
そのときだった。
どこからともなくびゅっと風の音がして、それはまっすぐ車に向かってきた。
「な、なんだ?」
「着いてきたな」
風がぶつかる直前、黒い影が音もなく上空へ伸び、まるで車ごと飲み込もうとするかのように広がる。
「ええーー~~!」
刻は車の横に立ったまま、影と対峙していた。
「おい、久須美!」
壮吾の声に顔色も変えず、刻は上着の懐に手を差し入れた。
スッと取り出した白い紙を掲げ、影に向かって切り裂くように素早く腕を動かす。
すると黒い影がバッと散り散りになった。その隙に、刻は車内へ飛び込む。
「すぐに出せ!」
「かしこまりました!」
「マジでいったいなにがどうなってんだよぉ~」
島ノ江は、丁寧な言葉とは真逆の運転さばきで夜の闇をふっ飛ばし、車は久須美邸へ到着した。
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