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刻の秘密 2
「え? 知らないのかよ! 超有名な妖怪じゃん。ゲ◯ゲの鬼◯郎のレギュラーキャラじゃないか。但し悪役じゃなくて優しい妖怪だけど」
さすが、やんごとなき家柄の御子息だ。誰もが知っている国民的妖怪アニメを知らないらしい。
壮吾は、久須美お坊ちゃまに簡単に説明した。
「――幽霊と妖怪か……。うん、どちらにも近いが、あれは別物だよ。話すと気が遠くなるほど長くなるから端折 るが、半分は生きている人間の仕業だ」
「人間!?」
「そう、生霊 だ」
「生霊? それってつまり……生きている人間の念かなんかが悪さをしてるってゆう」
「おや、驚いたな。春井くんにしては的を得た答えだ」
「そんで久須美って、推理だけじゃなくて除霊もできるの? さっきのはまるで霊媒師みたいだったし」
「エクソシストか陰陽師と言ってくれ」
「エクソシスト? 陰陽師?」
なにかこだわりがあるらしい。陰陽師のワードで壮吾の頭はピコーン、ときた。壮吾は、黒い一反木綿と対峙した刻が、懐から取り出していた白い紙を思い出す。
「あの白い紙は……お札か? 魔除けとかの?」
いかにも、安倍晴明が使いそうなアイテムだ。
刻はカップの取手を指二本で持ち、静かに口元へ近づけた。香りを楽しんだ後、肉の薄い唇へ持っていく。
「君にしては鋭いね、春井くん。正確には式神の札だけどね」
「式神……おまえ、探偵じゃなくて陰陽師だったのかよ!」
「陰陽師だったのは、僕の曾祖父だ。趣味でやっていたらしい」
「久須美のひいおじいさんが? え? ……――趣味でできるもんなの!?」
壮吾もカップを持ちあげるが、指二本は無理なので三本だ。
「その昔、陰陽師は神職扱いで一目置かれていた。陰陽道に属する占術や呪術などの生業を総じて陰陽師と称されていたんだ。だがそれは、大昔の話だ。曾祖父は久須美家当主としての家業の他に、副業でやっていたらしい。」
「へえ~、さっすが久須美のひいじいちゃんだな」
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