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刻の秘密 3

 しかし、やんごとなき家柄の当主が片手間に陰陽師などできるのだろうか。    壮吾は首を捻ってみるが、その陰陽道とやらの知識は皆無なのだから、何かがわかるはずがなかった。 「ところで春井君、君は過去に霊的なものは見たことがないと言ったね」 「ああ、一切、見たことも、なんにも感じたこともない」  怪談や、その手の番組は嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。けれど、それも「見えないことが」前提だ。  人は未知なるものに惹かれたり興味を持つものだが、見えないからこそ安全な場所から覗いている感覚だった。 「(そう)祖父の霊能力は相当強力だった。だから副業とはいえ、引く手数多(あまた)だったらしい……本人から聞いた情報だがな」 「あ、なんだ、直接聞いたのか。ひい祖父ちゃん健在なんてすごいな!」 「ああ。年に一度必ず会いに行くのだが、矍鑠(かくしゃく)とされている。じっとしているのが苦手な質らしくて、毎日外出されていると聞いた」 「そのようでございます」  刻に視線を飛ばされ、島ノ江が静かに応えた。 「へえ~」  いつの間にか、リラックスしているのを感じる。恐ろしい思いをしたばかりだが、日頃個人的な事を話さない刻の、親族エピソードを聞けるのはなんだか嬉しい。  刻の両親や兄弟や祖父母の話も、いつか聞かせてくれたらいいのにと思う。  悪友を続けて十年目でやっと曾祖父の話が聞けたのだから、兄弟の話に辿り着くのは……はて。二十年後くらいだろうか。  ――そんな先まで、久須美の隣にいられるのかわからないけどな 「現在、曾祖父専属の執事は、島ノ江の父親でね」 「えっ、そうなの島ノ江さん」 「はい」   常に穏やかでクールな印象の島ノ江が、ほんのり恥じらいを見せたような気がした。その様子から、彼が父親を尊敬しているのが窺がえる。    壮吾にもなんとなく想像できた。おそらくは島ノ江の家が代々久須美家に仕える家柄なのかもしれない。立場的に突っ込んでは聞けないが。    最高に美味しい紅茶を飲みながら(一杯二千円位だろう)大きくて高級な座り心地の良いソファーで、壮吾は完全にくつろいでいた。  さっきは怖い思いをしたが、安全な場所に避難できて安堵していた。  壮吾の向かいに座っている刻も、二杯目の紅茶の香りを堪能している。  しかし一転、その表情が堅くなったように見えた。

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