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刻の秘密 5

「島ノ江、春井くんをゲストルームへ案内してくれ」 「承知しました。では春井様どうぞこちらへ」 「え? あ……はい」  壮吾は立ち上がり、島ノ江に促されるまま豪華なリビングを後にした。  ソファーに座る刻の視線を感じたが、気づかないふりをした。 ♢  壮吾が案内されたのは、二十帖はありそうな洋室だった。  天蓋(てんがい)付きの大きなベッド(洋画で見たことがある)にソファー、チェスト、洒落たライティングデスクが並んでいる。部屋の中央には丸テーブルに椅子が二脚あり、ティータイムも楽しめそうだ。  しばらく滞在する壮吾のために用意された部屋だ。    南側に大きな窓があり、庭に面している。日中はきっと眺めがいいだろう。  居心地の良さそうな室内を見回しながら、壮吾は罪悪感にさいなまれていた。  ――さすがに、さっきは言い過ぎたかな……  普段、刻には軽口をたたいているが、あんな風にシリアスに拒絶の言葉を向けたのは初めてだった。    けれど、壮吾と刻は育ってきた環境も家柄も何もかもが違いすぎる。壮吾の深い部分の気持ちや思いは、刻には理解できないのだろうなと思う。  謝るべきだったかもしれない。けれど、壮吾にそんな余裕はなかった。  自分がちっぽけで心許なくて、刻と一緒に過ごしてきたこの十年が、足元から崩れてしまうのではないかと不安になった。  それでも、同じ建物に刻がいると思うだけで、ほのかな喜びを感じている自分もいる。そして、この部屋に来てくれないだろうかという期待もある。  ――でも、実際来たら追い返すんだろうな、俺は…… 「あー、くそっ!」  本当に、人の感情はめんどくさいものだ。壮吾は二十六年間生きてきて、何度思ったかわからない。  この先、刻との付き合いはきっと更にめんどくさいことだらけだろう。  ――それでも、好きなんだからしょうがねえな……  壮吾は、ふかふかのベッドにゴロンと転がり、目を瞑った。

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