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光の糸 2
「他にも誰かが出てきたような……そんで会話もした気がするけど……。いや、俺が誰かを見てたのか?」
ぼんやりした頭で思い出そうとするが、全てが白く霧がかかっているようでうまくいかない。
「ダメだ、思い出せない……けど、やっぱ久須美は出てきたよな……いや、やっぱわかんねー……」
夕べの刻との会話を思い出すと気が重くなった。
改めて考えれば、危ないところを助けられ、このような立派な部屋まで用意してもらい、しかもしばらく厄介になる身だというのに。
――あの言い方はキツかったよな……
刻の、真剣な眼差しが浮かんだ。
後悔の念が湧き上がってきて、壮吾はベッドカバーを掴んだ。
シルクのような(実際シルクなのだろう)柔らかでサラリとした手触りが気持ちよくて、手のひらで撫でるとホッとした。
終始、刻の態度は真面目だった。本当に彼の言う通り、冗談ではなく大真面目な話だったのだろうか。
どういうことかさっぱり不明だが、刻の言う「壮吾の祖母」が実在するとしたら……
――まさか、本当に? 俺の祖母が実在するってのか……
拒否して思考の外側へ放り投げたままだったから考えもしなかった。しかし、もし刻の言葉が事実なのだとしたら、それこそ天地がひっくり返る。
『僕の曾祖父と、君の母方の御祖母様には交流があったんだ』
刻は壮吾の祖母の情報を曾祖父から聞いていて、それを壮吾に伝えるつもりだったのだ。たとえその情報が事実と異なっていたとしても、聞いておくべきなのかもしれない。
――相手が久須美じゃ、俺は逃げられないよな……
ここでうだうだ考えていてもしかたがない。壮吾はゆっくり身体を起こした。
室内には、何故か置時計や壁掛け時計の類は一切置いていなかった。
ベッド脇のナイトテープルは繊細なアンティーク調のデザインで、ビジネスホテルの様な時計はついていない。
この部屋は来客用の部屋なのだろうし、恐らくは客人に時間を気にせずくつろいで貰うための配慮なのだろう。
壮吾は、丸テーブルに置きっぱなしだったスマホを見た。時刻は午前十時だった。
壮吾が着替えを終えて仕事のスケジュールを確認していると、ノックの音がした。
「あ、はい! どうぞ」
「失礼します」
ドアが開いて顔をのぞかせたのは、若いメイドの女の子だった。
「おはようございます、春井様。夕べはゆっくりお休みになれましたか?」
彼女はにっこり微笑むと、食器を乗せたワゴンを引いて丸テーブルの横に置いた。
「あっ、おはよう、いやー、ぐっすり眠れすぎてこんな時間に……」
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