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光の糸 3

――うわ、可愛い子だなあ  びっくりして目が覚めた。  世の男子はこんな感じの女の子に一目惚れをするんじゃないか、という見本のような可愛らしさだ。  常日頃、顔だけは抜群にいい悪友の顔を見慣れているせいで、美的感覚が麻痺しているのだが、彼女は群を抜いて可愛い。島ノ江も相当な二枚目だし、ちらっと見かけた他の使用人達も顔面偏差値は高めだった。  顔が良くないと、この屋敷では働けないきまりなんだろうか。  ――偏差値真ん中以下の俺は、久須美の友人で許されるのか……  容貌はどうしようもないから、肌の手入れ位はきちんとしようかなと考える壮吾だった。  メイドの彼女に話を戻そう。  メイド喫茶に行った経験はないが、いわゆる「可愛いメイドさん」のイメージより正統派な装いだ。小柄で色白、艶々の黒髪をお団子スタイルに結い上げていて、スカート丈が長めなのも上品で好感が持てる。    ――ん? 艶々の黒髪……  メイドの黒髪に、ぱっと別の映像が重なった。それは一瞬で消えたが、長い黒髪の女性の後ろ姿だった。  ――あれ? いつ見たんだろう 「春井様?」  彼女の声に、はっと我に返る。 「あっ、なんでもないよ。ほんと、こんな時間まで眠りこけるなんて久しぶりで……」  女の子相手に言うのがなんだか照れくさくて、壮吾は頬をポリポリかいた。 「鼻の下が伸びているぞ、春井くん」  いつの間に登場したのか、刻がドアに凭れて腕を組んでいた。 「わっ! でた!」  思わずそう叫ぶと、刻の秀麗な顔がたちまち険悪なものに変わった。メイドの彼女は主の登場に、深く頭を垂れる。 「なんだ、その驚き方は。僕はラスボスか何かかい」  ラスボスの意味わかって言ってんのかな……。 「お、おはよう久須美……けっ、今朝はいい天気だね……」  壮吾は、夕べの気まずさを払拭すべく明るく挨拶をしてみる。 「おはよう……と言うにはかなり日が高いがね。まあ、天気はいいな。気持ちのいい晴天だ。」  刻は引きずっていない様子で、ちらりと窓の外に視線を向けた。けれど、表情は不貞腐れたままだ。  ――あ、あれ? 多少は引きずってんのかな…? どっちだろ……  常にオーダーメイドのスーツ着用の刻だが、自分の屋敷内だからなのか、上着を着ていない。    ワイシャツにネクタイ、ツイードのベスト、スラックスのみ。ベストはウエストを軽く絞ったデザインで、ウェストが細く華奢に感じる。  しかし、この隙のないスーツの下に、しっかり筋肉のついた男の身体が隠れているのを壮吾は知っている。  空腹とは別の意味で、ごくりと喉が鳴った。  ――まてまて、朝からエロい想像はダメだろ俺! 可愛い女子の前だぞ!    

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