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光の糸 4

 とにかく、壮吾はいつもの調子で刻と話せてほっとしていた。  と、ぐううぅ~っという間抜けな音が部屋中に響く。 「うっ……」  壮吾の腹の虫だった。 「……君の腹は楽器の代わりになれそうだね」 「ははは……これはとんだ失礼を」  刻は呆れ返った様子で肩をすくめている。  ――うう、どこまでも三枚目な俺…… 「まあ、仕方ない。夕べはろくに食事も摂らず休んだからね。春井くん、軽いブランチを済ませたら、居間に降りてきたまえ」 「ああサンキュ、そうさせてもらうよ。なるべく早く行く」  そう答えた壮吾に、刻は視線を寄越す。ほんの短い時間だがじっと見つめた後、すっと横にずらした。  ――ん? 「ゆっくりで構わないよ。急いで食べたら君の胃が驚いてしまうだろ。……それでは、後で」 「あ、ああ」  口元で微笑み、刻は部屋を出て行った。  ――あれ? 何だったんだろ、今の……  以前も同じようなことがあったような気がする。それも一度や二度ではない。一瞬のことだし、すぐに忘れてしまうような些細なことだが。  さっきの壮吾は全神経を刻に注いでいた。だから気づいたのだ。  ――そういえば、癖なのかなって思ったことがあったな……  久須美刻という男は、育った環境が一般人とは異なる。幼いころから家庭教師を何人もつけ、最先端の教育を受けてきた。  語学も堪能で、壮吾が知る限りでは英語はネイティブ。フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、他にもあるはずだ。  刻に比べたら、英語の講師だった壮吾の語学力は「幼稚園児並み」と言われても仕方のないレベルだ。  何が言いたいのかというと、久須美刻は『最高の教育を受けてきた優雅なフェミニストの王様』なのだ。常に堂々としていて、相手がどこの誰であろうと、目を真っすぐ見つめて話す人間だ。  なのに、壮吾相手に話しているときは時々目を逸らすことがある。……なぜなんだろう。   再びぐううぅ~、と腹が空腹を訴えた。 「だめだ……腹減って考える力も出ないや」  まさにお腹と背中がくっつきそうな状態である。  メイドの彼女が軽食の用意をしてくれたようなので、壮吾はいそいそとテーブルについた。  シックなテーブルクロス(いつのまに掛けたんだろう)の上に更に重ねてクロスが掛けられ、真っ白な皿の上にはふわふわのフレンチトーストが乗っていた。他にも具沢山のスープや新鮮なフルーツもある。まるで高級ホテルの朝食のようだ。(食べたことないけど) 「うわあ、美味そう……これで軽食なんて贅沢だなあ」  ぱっと顔を上げてメイドを見ると、彼女の顔は茹でだこのように真っ赤だった。  

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