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光の糸 6
身体の関係はいつか終わりが来るだろうけど、友人関係はこの先も続く。そう考えれば、この状態を維持させた方がいいのだろう。
軽めのブランチを摂った後、壮吾は部屋を出た。
クラシカルなデザインのカーペットの上を進み、無駄に長く緩いカーブの階段を降りる。(階下へ降りるだけでも時間がかかりそうだ)
そういえばこの長い階段の様式は洋画で見たことがあったなと思った。恋愛映画かなんかのワンシーンだ。
普段はイケてない主人公の女の子が、ドレスアップして優雅に階段を降りていく。階段の下には、彼女の想い人が待っていて、見事にイメチェンした彼女に釘付けなのだ。
これだけ豪華なら、中世ヨーロッパのお姫様の方がいいかな。
面白い想像をしてしまった。
優雅に階段を降りるお姫様。階段の下で彼女を待っているのは、全年齢の女子をキュンとさせる微笑みを湛えた刻 だ。
美しい皇女相手なら、刻は優雅に微笑みを返すだろう。
男に興味のない刻が、長年壮吾に構ってくれる理由はわからない。壮吾と身体の関係を続けているのも不思議に思う。
けれど、友人関係を継続するためにも、壮吾から訊ねたりはしないつもりだ。
階段を降りきって、正面ホールを抜ければ刻の待つ居間だ。
ジャケットの内側に、僅かに付着した黒い影に気付くことなく、壮吾は意を決して開かれた扉の向こうへ進んだ。
身体の関係はいつか終わりが来るだろうけど、友人関係はこの先も続く。そう考えれば、この状態を維持させた方がいいのだろう。
軽めのブランチを摂った後、壮吾は部屋を出た。
クラシカルなデザインのカーペットの上を進み、無駄に長く緩いカーブの階段を降りる。(階下へ降りるだけでも時間がかかりそうだ)
そういえばこの長い階段の様式は洋画で見たことがあったなと思った。恋愛映画かなんかのワンシーンだ。
普段はイケてない主人公の女の子が、ドレスアップして優雅に階段を降りていく。階段の下には、彼女の想い人が待っていて、見事にイメチェンした彼女に釘付けなのだ。
これだけ豪華なら、中世ヨーロッパのお姫様の方がいいかな。
面白い想像をしてしまった。
優雅に階段を降りるお姫様。階段の下で彼女を待っているのは、全年齢の女子をキュンとさせる微笑みを湛えた刻だ。
美しい皇女相手なら、刻は優雅に微笑みを返すだろう。
男に興味のない刻が、長年壮吾に構ってくれる理由はわからない。壮吾と身体の関係を続けているのも不思議に思う。
けれど、友人関係を継続するためにも、壮吾から訊ねたりはしないつもりだ。
階段を降りきって、正面ホールを抜ければ刻の待つ居間だ。
ジャケットの内側に、僅かに付着した黒い影に気付くことなく、壮吾は意を決して開かれた扉の向こうへ進んだ。
「来たね、春井くん」
「おう」
広い居間の中央に設置された巨大なソファー。
刻は優雅なティータイムを楽しんでいた。足を組み、湯気の立ち昇るカップを二本の指で持って、紅茶の香りにうっとりしている。
「待っていたよ。座りたまえ」
「ああ……遅くなって、ごめん」
「いや、問題ないよ」
手で促され、刻の正面からややずれた位置に座った。その間、刻の視線を感じていたので無駄に緊張した。
「どうぞ、春井様」
島ノ江が、壮吾の前にティーカップを置いてくれた。
「リラックス効果が期待できる、アールグレイでございます」
「あ、ありがとう島ノ江さん。いただきます」
つい笑顔になってしまった。刻に対して気まずい思いがあるせいで、島ノ江の顔を見てやけにほっとしてしまう。
――なんか久須美の視線が痛いんだけど……
なんでだろうと思いきって顔を上げると、その視線はぱっと逸らされ、コホンと小さな咳払いが聞こえた。
刻も同じように複雑な思いでいるんだろうかと一瞬考え、すぐにそれを打ち消した。久須美刻は、そんな些細なことで感情を表に出す男ではない。
カップに口をつけると、ふわっといい香りが鼻孔に広がる。本当にリラックスできそうだ。
「さて、春井くん」
「……うん」
「夕べの話の、続きなんだが」
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