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光の糸 9
壮吾は思わず深呼吸した。いつの間にか息を詰めていたらしい。
「千代様の出産年齢は十八歳頃だと思われます。ご健在であれば六十八歳になられていたでしょう」
「十八歳!?」
思わず大きな声が出た。
――じいさん、ティーンエイジャーの女の子に手を出したのかよ!
さすがにその台詞は飲み込んだ。そして、「ご健在であれば」という言葉に引っかかった。
「あの、さ……。千代ばあちゃんて、今は」
「千代さんは、亡くなっている」
刻が無表情に言った。
「……え」
壮吾は惚けたように刻を見た。そして、視界に入った島ノ江に目を向けた。島ノ江は壮吾の視線を受け、ゆっくり頷く。
「千代様は……春井様のお母様を産み落とされて、間もなく……お亡くなりになったようでございます」
応えた島ノ江の目には同情が浮かんでいた。二人そろって冗談を言うはずがなかった。
「そんな! じゃあ、十八歳の若さで……そんなことって……」
疾うに諦めていた肉親との再会。
希望の光に手が届きそうだったのに、一瞬で、暗闇に突き落とされる。
「なんだよ、それ……」
壮吾は頭を抱え顔色を失った。こんな思いをするなら、知りたくなかった。
「そんな残酷な話なら、知りたくなかったよ。どうして話したんだよ……」
「春井くん」
刻が、過去に見たことがないほど、哀しげな眼差しを壮吾に向けた。
「内緒にすることはできた。しかし、知ってしまった以上、孫である君に伝えるべきだと、僕は思ったんだ」
「だからって……」
光を見たくないから、自分から影に入って歩いてきた。周囲の幸せそうな親子や家族の幸せそうな声を聴きたくないから、耳を塞いできた。
子供のころから、欲しいものを抑え込んで、自分を騙してきた。
なのに、一瞬期待してしまった。
「そりゃないだろ……」
胸の奥から嗚咽に似たものが喉を圧迫する。手足が小刻みに震え出し、寒さに凍えるように壮吾の身体がガタガタ揺れだした。
「あっ、なんだ、これ……」
「春井様、いかがなされましたか」
「春井くん!」
刻が素早く動き、隣に座った。壮吾は震える身体を自力で止められなかった。
「ふ……うっ……」
あごが震え、歯がカチカチ音を立てた。
「……まずいな。夕べの黒いやつに気をあてられたかもしれない。欠片が春井くんの上着に付着していたんだが、軽視していたな。すぐに浄化をしないと危険だ。島ノ江、すぐに春井くんを客間へ」
「かしこまりました!」
刻は胸ポケットのチーフを丸め、壮吾の口へ突っ込む。
「舌を噛むといけないから、少しの辛抱だ」
「うぐっ」
島ノ江は壮吾の身体を軽々抱きかかえ廊下を進み客間へ入ると、ベッドへ仰向けに寝かせた。
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