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光の糸 10
島ノ江が出て行った後、刻は震えの止まらない壮吾のシャツのボタンを外し前をはだけさせ、ばしゃばしゃと液体を振りかけた。
「うっ……」
「冷たいが、我慢しろ」
匂いで日本酒だとわかった。
冷たい液体とは反対に、刻の温かい手の平の感触を裸の胸に感じる。
見上げると、刻は右手を壮吾の胸に当てたまま、左手を顔の前に真っすぐ立て、祈るように目を閉じた。
何やらブツブツと念仏を唱えている。
寒さから震えているわけではないが、身体は冷えきっていた。その証拠に、酒をかけられた場所からじわじわと温度広がっていく。
チノパンのジッパーが下ろされた後、刻の手が強引に下着の中に差し込まれ、壮吾の萎えた中心を握り込んだ。
「ぅあっ」
いつもと違い、情欲の欠片も感じさせない刻に触られるのには抵抗を感じるが、自力では指すら動かせずどうしようもなかった。
「んっ、ぁあっ」
握られた部分から徐々に熱が発生し、下肢を覆っていく。大きくゆるやかに扱かれた壮吾のペニスは形を変えてぐんと硬く反り返り、先端からじわりと液をこぼした。
「よし……いい子だ」
低い声で囁かれ、それにすら反応してしまう。
「ふ、う……」
酒の匂いで酔いそうな上、下肢にもアルコールがたっぷりかかったせいなのか、皮膚が熱く火照ってくる。
直後に刻の長い指が、壮吾の孔口へぬるりと差し込まれた。
「やっ」
「大丈夫、力を抜いて」
中を解すように抜き差しを繰り返し、徐々に指を増やしていき、もう片方の手は壮吾の硬芯を高みへ追い上げる。
「ぁあ……や、ぁああ……」
後ろと前を同時に刺激され、急速に昇りつめ、壮吾は極まった。身体をがくがくと揺らしながら、大量の白濁を飛ばした。
「はっ、あ、あ、は、あ……」
大きく胸を上下させながら、いつのまにか身体の震えが治まっていたのに気づく。
「震えは止まったようだね。なら、次は最後の仕上げだ」
刻はスラックスのジッパーを下ろし自身のペニスを取り出した。それは既に硬く膨張しており、煌々とそそり立つ熱い肉棒だった。
オーダーメイドの高級スーツをきっちり纏った美しい男が、グロテスクな巨塊を晒す様は、見上げる壮吾の目に毒だ。
「今夜は、ゴム越しではなく直に入れるよ。良すぎて気を失わないように。……いいね」
熱のこもった声で囁かれ、しかし壮吾は喋ることができず、ただこくこくと頷いた。
刻の気持ちが自分になくても、どんな理由だろうと、抱いてもらえるのが嬉しかった。
一刻も早く、熱い劣情を挿れて欲しい。
狭穴にぐっと強い抵抗の後、刻が道を蛇行しながら侵入してくる。
「ふ、う、う……」
威圧感を過ぎれば、快楽のまま引きずられるのは壮吾の身体が充分に知っていた。
けれど今回は、恒例とも言える刻との情事への流れが異なっていた。島ノ江に抱えられる前、壮吾は確かに「浄化」という単語を耳にしていた。
「君の中、今夜は特に熱いね……。凄く引っ張られるよ」
行為中の刻は、情熱的な反面、常に冷静な面も持ち合わせていた。
しかし、今夜の壮吾を犯す男の秀麗なポーカーフェイスに、強い情欲が見え隠れしている気がする。
「春井くん、集中するんだ。大丈夫、いつものように力を抜いて」
狭く暗い場所を慎重に進み、長くて太い降起物がゴリッと奥まで達する。
「ああ――――っ」
もうこれ以上無理というところまで犯され、初めてのゴム無しの行為に、壮吾は痺れるような強い快感に耐える。
刻が動き出したらたまらなかった。
刻と島ノ江の会話が気にかかるが、過去にないほどの強烈な愉悦に意識が朦朧となる。
好きだと言ってしまいそうになる。刻の額から汗が流れ、雫となって壮吾の頬に流れ落ちた。
「だめ……だ、はっ、あぁっ」
「体は正直だよ。蛇のように絡みついて……僕の方が喰われそうだ」
息の多く含まれた声も耳から侵入し、官能の毒となる。
激しく揺すぶられた後、壮吾の意識は、飛んだ。
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