34 / 102

刻と壮吾の繋がり 1

「……さま。春井様」    ぱちりと目を開けると、高い天井がぼんやり映った。  瞬きを数回。首を動かす。カーテンの隙間から日が差し込んでいるから、あ、朝なのかと思った。 「春井様、お目覚めになりましたか」 「は……い」  声の方に首を向けると、島ノ江が壮吾を見降ろしていた。  視界が捉えた整った顔。  壮吾の頭が、考えるために動き出す。そして身体を支えているふかふかのベッド、手触りの良いシーツ、それらを実感した。  ――俺の部屋じゃない! 「わっ! 島ノ江さん! お、おはようございます。……びっくりした」 「清めの塩を入れた湯を張ってございますので、ゆっくり入浴なさってください。……昨夜はお疲れのようでしたので」 「昨夜……」    頭はまだぼんやりしていたが、シーツにくるまれた身体は疲労感でずっしり思い。素肌は昨夜の熱を微かに残している。 「身支度が整いました頃に、お食事を運ばせますのでお召し上がりください」 「あ、ありがとうございます」  島ノ江は終始穏やかな笑みのまま、一礼すると部屋を出て行った。  壮吾は深呼吸の後ゆっくり起き上がり、ベッドから降りる。立ち上がってみると不思議と身体は軽く、疲労感は霧散していた。  刻が『浄化』してくれたということなんだろう。  昨夜は特に、壮吾の知らなかった刻の一面を見せられた気がする。  最初の晩は刻の曾祖父の副業が陰陽師だと聞いた。刻も、式神の御札のようなものを使っていた。    けれど、ただのお気楽なお坊ちゃん探偵とは思えない、あの、霊媒師のような妙な振る舞い。あまりにも現実味がなかった。  そして、壮吾の身体に酒を振りかけ……。  『浄化』というより、あれはまるで『浄霊』もしくは『除霊』のようだった。  ――本人に訊いてみるしかないよな    ベッドサイドの真鍮の置き時計は八時を指していた。ブラックのスリムパンツと綿のシャツに着替え部屋を出ようとしたところへ、メイドの若梅が朝食を運んできた。 「あ! ……と、すみません、運んでもらっちゃって」  頭に手をやりながら会釈すると、まだあどけない顔立ちのメイドは「いいえ」とにっこり微笑んだ。  その笑顔に、心が洗われるような気がする。 「春井様は刻様の大切なご友人ですから。どうぞ、ごゆっくりお召し上がりくださいませ」 「ありがとう、さっそくいただきます」  邪気のない笑顔につられて、思わず破顔する。壮吾もリラックスした心地になった。  ――日頃、邪気をまとったヤツとつるんでるから、なんか、癒されるなあ。  白いクロスのかけられたテーブルにつき、スープを一口飲む。途端、忘れていた空腹を急速に思い出し、次々皿を空にしていった。

ともだちにシェアしよう!