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刻と壮吾の繋がり 4

 刻が続ける。 「過去にきみは、散々男に尻を追いかけられていただろう。もちろんそれらは実体だった。しかしあの晩は、きみへの強すぎる想いが、本人の自覚のないまま、情念だけが姿を現したんだ。千代さんと同様のパターンだろうね」 「えー……、俺の過去のドタバタは、魔性の目が原因だってのか? この、地味~な一重瞼の目が魔性の目って、隔世遺伝ってこと? ……ちっとも有難くはないな」  信じられないような話だが、実際、壮吾は過去に男に執着された経験が多かった。刻の助言で伊達眼鏡をかけるようになってからは、劇的に減っていた。 「そっか……やっぱり俺の目が原因だったんだな。なんか、腑に落ちた」 「しかし……霊的なものを見たり感じたりの経験が皆無のきみに、今回ははっきり見えた。その事と、生霊が出現した事。その二点は無関係ではないだろうね」  壮吾は、じっと刻を見た。次の言葉を待っていたが、刻は若梅を呼びつけ、紅茶をおかわりしている。  しばらく無言で向き合っていると、島ノ江が口を開いた。 「春井様は、刻様が事件を解決する場面に何度も立ち会っておられますが」 「え? うん」 「では刻様は、どのようにして事件を解決に導いておられますか」  まるで、生徒に問題を与える教師のように島ノ江が言った。なぜ今その話を振るのかと思いつつ答えた。 「それは、えーと、探偵だから、推理……でしょ」  式神のお札だという、白い紙を掲げた刻の姿が浮かぶ。  まるっきり陰陽師のようだった。 「春井くん、僕が犯人を名指しする前に必ず言う決まり文句は、覚えているだろう」 「そりゃもちろん」  刻の、あの尻がむずむずする決め台詞だ。 「ええと、『僕には推理などできません、夜空にきらめく星々が…』とかなんちゃらだよな」  刻がおもいきり眉をひそめた。 「……きみ、あれだけ現場に引っ付いてきてるくせに正確に覚えていないのか」  責めるような言い方にむかっとする。 「俺が勝手に引っ付いてるような言い方するなよな! お前が……。いや、もちろん覚えてるよ『天に煌めく星々が、僕に答えを告げ、解決へと導くのです』だろ!」  どうだと言わんばかりに完璧にそらんじる壮吾に「お見事だ春井くん」と、刻は満足げな笑みを見せた。 「そう、僕には推理などできない。成人男性が持つ洞察力よりやや長けているくらいだ」    足を組み替えた刻は、細く長い指を顔の前で交差し、口元へもっていく。 「じゃあ、どうやってお前は事件を……」  口元に笑みを湛えたその表情は、初めて目にする一面だった。 「僕には、曾祖父から受け継いだ霊能力があるんだ。祖父や母には一切なかった力を、どういうわけか僕だけが受け継いだ。これも隔世遺伝だろうね。そう……僕が数々の難事件を解決できるのは、霊達が犯人を教えてくれるからだ」  

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