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刻と壮吾の繋がり 5

「は? 霊が教えてくれる?」 「ああそうだよ。けれど、そうそう親切な者ばかりじゃない。中には意地悪な霊もいて、黙秘を貫くやつもいる。単に人と話すのが苦手な霊も」 「へええ~、やけに人間くさいんだな。まあ、みんな元は人間だもんな」    刻は壮吾に向かってにやりと微笑んだ。凡人がやれば下品になりそうだが、この男はどんな時でも優雅にやってのける。 「そんな時に、千代さんが力になってくれたんだ」 「は? ばあちゃんが?」 「まったく、千代さんは凄い人だよ。霊体になっても未だに生きた人間のように振る舞うものだから、時々混乱するんだ。僕が女性に振り回されるなんて……」 「未だにって……。えっ、霊体のばあちゃんに、お前は会ってんの?」 「そうだよ」  混乱するのはこっちだ。壮吾の母を産んですぐに亡くなった祖母が、普通の人間のように刻に見えるだなんて……。未だに、ということは現在進行形ということなんだろうか。  刻は大げさに額に手を当てた後、居住まいを正した。 「話が脱線したね。順を追って説明していこう。……島ノ江」  刻は島ノ江にバトンを渡すつもりのようで、目を閉じてしまった。しかたなく、壮吾は問い詰めたい気持ちをぐっと抑えた。 「かしこまりました、刻様」    忠実な(しもべ)である次走者の島ノ江が、主人からバトンを受け取った。 「刻様は一般的な探偵とは異なります。言うなれば警察機関の協力者です。ですが、ざっくり称すれば探偵でしょうか」  じゃあ、探偵でいいじゃないか、と突っ込みたい気持ちをぐっと堪えた。 「刻様は幼少の頃から多くの推理小説を愛読されていました」 「コナン・ドイル、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーンはジュニアスクール時代に読破したよ」  刻が口を挟む。 「翻訳者は苦労するだろうなあ、推理ものは」   のん気に壮吾も言った。  ちなみに、刻と壮吾は三年間同じ公立高校にだったが、刻は中学校までインターナショナルスクールへ通っていたらしい。 「まったくだ。春井くんが翻訳したら別の話に仕上がるだろうね。目も当てられない」 「うっせえ」 「まあそんなわけで、僕が探偵に興味があったのは事実だよ。実際、十歳の頃から身近で起きた小さな問題は解決してきた実績があった。能力は臨機応変に利用してね」  十歳の刻は恐ろしく可愛げのない子供だったに違いない。ただし、見た目は天使だろうけれど。 「しかし、僕の力にも限界があってね。どうしても解決できない事例が少なからずあった。被害者の霊が心を閉ざした時だ」 「そんな時、刻様は春井様に出逢われました」    合いの手のように島ノ江が言う。 「えっ、俺?」

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