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刻と壮吾の繋がり 6
思わず刻を見ると、バッチリ視線が合う。真剣な眼差しに壮吾の鼓動は跳ねた。
――ドキドキさせんなよ。……あっぶねえ
「正確には、出逢ったのは君の傍にいた千代さんだけどね。なんと彼女は僕に取引を持ちかけたんだ。驚いたよ、相手は人ではないのだからね。彼女は、孫を守ってくれるなら協力する、私の力を使えば解決できない事件はないと言いきった。幼いころからあらゆる霊体を見てきたけれど、千代さんのようにはっきり、まるで生きた人間のようにコンタクトを取ってくる霊体は初めてだった。でも、いくら相手が美女で、事件解決のためでも、生身の女性じゃないから興味がわかなくて、初めは無視してたんだ」
美女の幽霊に追い回される刻が、想像できない。逆なら容易だが。刻は当時を思い出すようにふっと口元を緩めた。
「孫の君が男関係であたふたしてるのを、千代さんも同じようにあたふたして、そりゃあ心配してたな」
「ばあちゃんが……」
「出逢った頃年上だった千代さんは、いつの間にか年下になっていった。けれど、相変わらず孫の君を心配していた。僕は根っからのフェミニストだからね、とうとう情けをかけることにしたんだ」
刻が肩をすくめた。
うっかり付き合いが長くなり、霊体とはいえ姿は十八歳の可憐な少女だ。さすがの刻も、情にほだされたのかもしれない。
「……なあ、ばあちゃんはいつも俺の傍にいるのか」
刻が壮吾を見つめた後、その視線は後方に移動する。
「いるよ。今も、すぐ傍できみを見てる」
「……そっか」
ずっと天涯孤独だと思って生きてきた。たとえ霊体でも、自分を心配してくれる肉親の存在は嬉しくて、胸の奥がぽっと温かくなる気がする。壮吾は左肩にそっと右手を乗せた。
「春井くん、きみ、千代さんが見えるのかい」
刻が驚いたような声を出す。
「えっ? いや、見えないけど、なんか左肩が温かいような気がして」
壮吾の後方に視線を止め、刻がふっと微笑む。
「千代さんはきみの左肩に手を乗せているんだよ。……凄く嬉しそうな顔してる」
「ほんとに、ばあちゃんが? ……あ、でも十八歳の女の子にばあちゃん呼びはダメだよな。年下の女の子なんだし、千代ちゃん、がいいかな」
なんだか照れくさくて、つい頭をぽりぽりかいてしまう。
「それがいいそうだ」
「じゃあ、これからは千代ちゃんだ」
ぽわっと肩の温度が一段と高くなる気がした。
祖母が若くして亡くなったと聞かされたときは崖下に突き落とされた心地だったけれど、本当に左肩からぽかぽかして、胸まで温かくなってくる。
島ノ江が話を続けた。
「本格的にボランティアで探偵業を始められた刻様は、時には千代様の力を借りて事件を解決しました。しかし一方では千代様の要望通り、春井様を守り、浄化の手助けをされたのです」
ここでも『浄化』がでてくる。
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