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沈められた想い 1
それから脱線しながらも、刻と島ノ江は交互に説明を続けた。
その昔は中務省陰陽寮内の陰陽道に属していたとか、官人や技官と同等の身分だったとか。
そして驚いたことに、代々久須美家に仕える家臣は霊能力を持つ者が半数以上らしい。
島ノ江も、やはり彼の曾祖父の時代から久須美家に仕えてきた家系で、刻曰く、島ノ江は執事としてはもちろん、霊能力に関しては特に頼れる存在だというのだ。
――やんごとなきミラクルハウスってか、久須美家
壮吾は客間のベッドに預けていた身体を起こす。
二人の話が終わると、時刻は午後を回っており、メイドの若梅が昼食の準備が整ったこと知らせに来た。
胃に隙間を感じなかった壮吾は、やんわり断って部屋にこもった。しかし、食欲がない原因はわかっていた。
壮吾はベッドから降りると、窓に近づいた。
天井まで伸びた腰高窓から、レースのカーテン越しに陽が差している。
勝手に外出しないよう刻から御達しがあったが、今のところ仕事もないし、庭を歩いてみるのもいいなと思った。
広葉樹や針葉樹が多く植えてある広い敷地を散策したら、良い気分転換になりそうだ。
窓から見える鮮やかな緑色に目を奪われながら、刻から聞かされた話を頭の中で反芻する。
刻は、祖母との約束のために壮吾の傍にいたと言っていた。
こうして景色を見ていても、胸の奥がざわざわして一向に落ち着かない。
自分は傷ついたのだろうか。友達だと思って付き合ってきた相手に、実は契約だったと告げられて。
けれど、壮吾は隠した想いをこれまでずっと抱えてきた。胸の内を刻に明かせないのだからから、フィフティフィフティなのかもしれない。。
――そんな風に割り切れたら、どんなにいいかな
「ねえ、千代ちゃん」
姿の見えない祖母に、そっと話しかけてみる。ふわっと周囲の空気が柔らかくなる気がした。
きっと、祖母に壮吾の気持ちはバレているのだろうなと、なぜか思った。
コンコンとノックの後、ドアが開く。顔を覗かせたのは刻だった。
「春井くん、僕は出かけるがきみは置いていく。おとなしくしていたまえよ」
「事件か? 千代ちゃんいなくて平気なのかよ」
「概要を聞いたところ、複雑ではなさそうだ。まあ、なんとかなる」
「でも……」
開けたままのドアをノックして、若梅がワゴンを引いて入ってくる。
「心配はいらない。さあ、お茶を飲んでくつろぐといい。自分で考えるより、身体は消耗しているはずだからね」
なんだか常日頃よりも数倍、刻が優しい。
壮吾に対して暴君なやんごとなき坊ちゃんも、壮吾に同情しているのかもしれなかった。
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