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沈められた想い 3
「体調でも悪いのか? このところ立て続けに現場へ呼ばれてるし、俺の事もあるしで、疲れ溜まってるんじゃないか?」
なんだか刻が頼りなげに見えて、壮吾は許されるなら抱きしめたいと思った。
こうして静かに立っている刻は、線の細い儚げな美しさをたたえる青年にしか見えないからだ。
ふいに刻の手が、肩に乗せた壮吾の手を握った。そして、過去自分に向けられたことなど一度もないような、慈愛に満ちた眼差しで、見つめられる。
――え? なに……
と、次の瞬間、手の甲をきゅっとつねられた。
「いでっ」
「……まったく、きみに心配される日が来るなんて、僕も落ちぶれたものだ」
さっきの様子と打って変わり、大げさに肩をすくめている。
「べつに、心配なんかしてねーよ。もう、さっさと行って来い」
「ああ、行ってくるよ」
何事もなかったように、刻の手が壮吾の右肩に軽く触れる。普段は口が悪くてつれなくても、一度だって乱暴に扱われたことはない。育ちがいいということもあるが、そんな瞬間に刻の優しさを感じる。
ふと、視線を感じて振り向くと、若梅が真っ赤な顔をして壮吾と刻をガン見していた。
壮吾と視線が合うと、慌てたように下を向く。
――可愛いなあ、若梅さん。またレアな刻様が見れたのかな
壮吾がひっそりほんわかしていると、刻も若梅を見ていた。
――ん?
またしても、初めて目にする刻の表情だった。
――なんだ? この顔……?
少なくとも、主人が家臣に向ける表情ではない。気まずいのか居たたまれないのか、そんな顔だった。
「どうした、久須美」
「……いや、何でもないよ」
瞬時にキリッといつもの読めない顔に戻り、刻はドアへ向かった。
「では、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
亜麻色の髪が揺れる背中がドアの向こうへ消えても、壮吾はしばらくそのままでいた。手の甲がひりひりするが、刻が初めて与えてくれた痛みのような気がして、いつまでも撫でていた。
やっぱり、刻を好きだと思った。
刻に言われた通りお茶をたっぷり飲んでゆっくり寛いだ後、壮吾は部屋を出た。
庭を散策してみたいけれど、刻に心配かけるのは避けたいから、とりあえず、屋敷の中をブラブラ歩いてみることにしたのだ。ホテル並みの規模だから、充分時間は潰せるだろう。
壮吾が借りている部屋は二階だが、下へ降りてみようかと絨毯張りの長い廊下を歩く。
――屋敷内は安全らしいけど、バリケードでも張ってんのか? まさかなあ
「春井様、いかがなされましたか」
鈴の音のような声に振り向くと、メイドの若梅だった。華奢な両手で抱えた大きい籠に、白いタオルが山積みになっている。
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