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沈められた想い 5

「あのー、若梅さん?」 「……あっ」    若梅は、今始めて自分の非礼に気づいたような顔をした。 「もっ、申し訳ございません! 春井様! 私ったら、また夢中になってしまって……あ、いえ、大変失礼いたしました!」  いったいなんだかよくわからないが、慌てる若梅が可愛いので、壮吾は思わず声を上げて笑ってしまった。 「あー、久しぶりだよ、こんなに笑ったの。若梅さんて面白いなあ」 「すみません……。もう、私ったら……刻様の大切な方になんて態度を……」  若梅さん、「友人」が抜けてるよ。胸の中でつぶやき、壮吾はしばらく彼女に話し相手になってもらった。    和やかに談笑していると、ふいに若梅の表情が緊張した。見ると、島ノ江がこちらに歩いてくる。 「では春井様、私はこれで失礼します」  壮吾に一礼し、島ノ江にも一礼した後、若梅は仕事に戻っていった。  壮吾は島ノ江に声をかける。 「島ノ江さんは、久須美と一緒に行かなかったんですか?」 「はい。本日は千吉良(ちぎら)が刻様についております」 「そうですか……また、変わった名前の人ですね」  壮吾が刻と共に現場へ行くとき、必ず島ノ江は運転手として同行していた。島ノ江は刻の専属の執事だし、何より頼りになる人材だ。その彼を置いていくなんて、大丈夫なのだろうか。  壮吾も同伴しなかったから、事件解決に必要な千代の力も使えない。 「ご心配は無用です。千吉良は使える男ですから、しっかり刻様をお守りいたします」  島ノ江を見上げると、穏やかな笑みを返される。千吉良という男に面識はないが、壮吾より頭一つ背の高いこの男の存在感は、刻にとってはお守りのようなものではないかと思える。   ――千代ちゃんとのことがあるとはいえ、俺は、久須美にとって足枷になってる気がする    刻がただの友人なら、ここまで不安にならないのだろうか。 「春井様、私でよければ敷地内をご案内します。少しなら庭へ出るのも気分転換になるでしょう」 「出ていいんですか?」 「はい。私と一緒なら大丈夫です」  背筋のすっと伸びた黒いスーツの後ろをついていく。広い背中には安心感が あった。刻といるときも安心だし嬉しいけれど、同時に想いを隠しているからドキドキ冷や冷やする事が多いのだ。  屋敷の正面周辺には、樹木がシンメトリーに植えられているが、裏手にはグリーンがうっそうと茂っている一帯があった。しかし近づくと、手入れは行き届いているのがわかる。可愛らしい木製の丸テーブルと椅子が二脚、オブジェのように設置されている。 「春井様は、刻様にとって大切なご友人です」 「いや、……はは、そうです、かね」

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