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沈められた想い 7

 ――あ、でも……    出掛ける前の、刻の様子がおかしかったのを思い出す。やっぱり疲労が溜まって体調を崩していたのだろうか。 「霊能力を使うことが、肉体に負担をかけるんですか」  不安になって、問いかける声が震えた。 「それもありますが、浄化です。あなたの体内に入り込んだ悪しき陰を、刻様は一度ご自分の体内に取り込まなくてはなりません。その行為が、大幅に体力を消耗する原因です」 「そんな! だって……あいつは、そんな素振りは少しも」 「刻様は、久須美家の次期当主になられるお方です。疲労を表面に出さぬように振る舞うことなど、朝飯前でしょう」  常に礼儀正しい島ノ江の、やや投げやりな言い方に真実味を感じる。心底刻を心配している島ノ江の心情を、如実に表している気がした。  ――どうしよう、今からでも、久須美のところへ連れて行ってもらおうか。  体調悪い上に千代ちゃんもいなかったら……  十年近い付き合いの中で、あんな様子の刻を見たのは初めてだった。壮吾は、心配で胸が張り裂けそうになる。 「春井様」 「はい……」 「私は刻様のために、未来の久須美家のために、少々酷なことを言わなければなりません。――千代様も聞いておられることでしょうから、率直にお伝えします」  島ノ江の声はとても優し気だ。なのに、ひどく怖く感じる。  正面を向いていた島ノ江が、ゆっくり壮吾を見降ろした。 「春井様。千代様と一緒に、刻様から離れてくださいませんか」 「……は?」  ひやりと体温が下がった気がした。島ノ江の発した言葉が、脳まで到達するのが遅いのか、壮吾は告げられた内容をすぐに理解できなかった。 「それは、どういう……」 「一時的に距離を置くという意味ではございません。離れたらずっとそのまま、二度と、刻様に近づかないでいただきたいのです」  壮吾は目を見開いた。島ノ江は瞬きもせずにそれを受け止める。 「二度とって……うそでしょ、なんで……」 「刻様は、千代様のことがなかったとしても、春井様との友情が大切なのです。ですがそれは、あなたにとって辛いことではないのですか」  ――この人は、俺の気持ちに気づいてるのか…… 「どうか、刻様と久須美家のために、覚悟を決めてください。春井様」  壮吾は、涙を見られる前に眼鏡を外し、目を抑えた。  そして、そういえば島ノ江さんは俺の目を見ても平気なんだっけと、どうでもいいことを思い出す。  「それに……」  島ノ江は壮吾に一歩近づくと、すっと顔を寄せた。 「浄化は刻様でなければならないという決まりはありません。他の者でも可能です。……もちろん、私も」  カッと全身が熱くなった。  そりゃ、壮吾は浄化のために刻に抱かれていた。  でも壮吾は刻が好きなのだ。男なら誰でもいいわけじゃない。  

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