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誰よりも大切なひと 5
「彼らをよく見てくれ。疑いたくはないが、春井くんが誰にも見られずに屋敷を出たとは考えにくい。誰かが手を引いているはずだ」
「……はい」
若梅の顔に緊張が走る。虚偽の申告をした者がいれば、たちまち若梅に見抜かれてしまうだろう。
大きな目を更に大きくして、彼らをじっと観察していた若梅が息をのんだ気配がした。
「どうした」
「刻様……」
表情を硬くしたままの若梅が、声を抑えて刻に報告する。それを聞いた刻の目が、ギラリと光った。
「――やはり、そうか」
「でも刻様、私には深い事情があるとしか思えません」
「そうだな、僕もそう思う。しかし今は春井くんを捜し出すのが先決だ」
「はい」
若梅の不安が和らぐよう、刻は微笑んでみせた。しかし、胸の中は嵐のごとく荒れ狂っていた。
島ノ江が足早に報告に来る。
「刻様、春井様の姿を見た者はおりません」
「そうか。……では、車を出せ。春井くんを追いかけるぞ」
「かしこまりました。千木良も呼びますか」
「いや、おまえと二人で行く」
「――承知しました」
♢
一言で言えば、『常にひょうひょうとしている』というのが、壮吾に対するイメージだった。
彼の生い立ちも関係しているのだろうが、何に対しても執着せず、つかみどころがない。
いつもどこか遠くを見つめていて、風のようにふわりと飛んでいってしまいそうな、そんな危うさが壮吾にはあった。
そして、出逢ったときも、彼は誰かに追いかけられていた。
当時刻が付き合っていた女性が、壮吾の友人だった。彼女の話で、壮吾が昔からストーカーに狙われやすく、しかも全員男だというのにはひどく驚いたのを覚えている。
同性愛に偏見はなかったが、刻は自他共に認めるフェミニストだ。男同士で恋愛するだけでなく、ストーカーと化して追いかけ回すことが理解不能だった。
いくら相手に強い恋情を抱いていたとしても、そこまで非常識な行動を起こせば嫌われるし、社会的に地に落ち、仕事も失う可能性が高い。
そこまでのリスクを負ってまで、男の尻を追いかける輩の気が知れなかった。
初めは、刻も高みの見物だった。しかし、よく観察してみると、壮吾の傍に髪の長い女性が寄り添うのに気づいた。後から考えれば、なぜ今まで気づかなかったのか不思議だが、トラブルに巻き込まれる壮吾を心配しているらしかった。
『春井くんといつも一緒にいる女性は、君も知っているひとかい?』
当時の恋人にさりげなく訊くと、彼女はぽかんとしてから言った。
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