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真実 3
無事に目的地へ到着した。時刻は午前九時過ぎ。
壮吾は、赤い鳥居を見上げた。
お祓いをやってくれる神社を夕べのうちに調べていたが、結局ホテルのフロントで聞いた神社に決めた。
ここまで来たら、今更引き返すことは出来ない。
「よし、行くか」
壮吾は腹を決め、一歩踏み出した。
鳥居をくぐる時、胸がざわついた。祖母の千代が壮吾に何か訴えているのかもしれないと思った。しかし、壮吾の耳には千代の声は聞こえない。
千代が壮吾の傍にいるかぎり、刻は壮吾の居場所を察知するだろう。それなら、千代に成仏してもらうしか他に方法がないと思った。
「ごめんね、千代ちゃん……もうお別れだよ」
最後に一目、刻の顔を見たいと性懲りもなく思ってしまった。けれど、顔を見たら決心が揺らぐし、勘の鋭い男に怪しまれてしまう。
だから、ここで振り切るしかないのだ。
境内へ入り参道を進むと、立派な社殿が見えてきた。大きい神社だから、神職の人間が常駐のようだ。お守りや絵馬などを取り扱う売店も見えた。
その周辺を白い袴姿の男性が箒で掃いている。
壮吾が近づいていくと、気がついた男性が「おはようございます」と会釈した。
「おはようございます。あの、お祓いをお願いしたいのですが」
「厄払いでいらした方ですね。御祈祷場所はあちらの幣殿 になります」
男性が後方の建物を指した。『厄払い』と聞いてドキリとした。
「予約はお済ですか」
「あ、いえ」
「これからのお申込みですと、少しお待ちいただくことになりますが」
――そうか、予約が必要だったのか。でもそんな余裕なかったしな
改めて厄払いと聞くと、悪いものを祓うという意味かと気づく。壮吾はそんなつもりは毛頭ない。ただ、千代に成仏してほしいだけだ。
壮吾は無意識に眼鏡を押さえ、男性に問いかけた。
「あの、先祖の霊に成仏してもらいたいんですけど、それって、厄払いで大丈夫なんでしょうか。――すいません、勉強不足でお恥ずかしいんですけど」
そう告げた壮吾に、男性は穏やかな佇まいのまま言った。
「厄払いは、主に前厄や厄年の方が多く受けられる御祈祷です。または、それらの年に当たらない方でも受けられます。ですが、浄霊は厄払いとは異なりますので」
「浄霊……」
「浄霊は霊を安らかに天へお帰りいただくこと。除霊は邪悪な霊を祓うので、また意味合いは異なります」
「浄霊、除霊……」
考え込む壮吾に、男性は続けた。
「浄霊でしたら、お寺の方がお望みを叶えてもらえるかもしれません」
男性は親切に、浄霊などを扱っている寺を教えてくれた。壮吾は深々と頭を下げお礼を告げると、その場を離れた。
固く決心していただけに、なんだか気が抜けてしまい、ぼんやり参道を歩く。拝殿を横切るとき、ゆっくり一礼をしてから、再びとぼとぼ歩いた。
――さっきまで焦ってたのに、なんだか癒されちゃったな
参道を歩き歴史的建造物を見て、凛とした厳かな空気に触れているうちに、気持ちが落ち着いていた。
壮吾は引き寄せられるように、一本の巨大な木を見上げた。
驚くほど太いしめ縄が巻かれている。恐らく、この神社の御神木だろう。
「すっげー……立派だなあ」
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