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二度と離さない 3
「しかし島ノ江、春井くんを危険に晒した罪は重いぞ。覚悟しておけよ」
「はい。それは重々承知しております」
島ノ江が神妙な面持ちで応えた。
「えっ、罪っておい……」
島ノ江の行動は無茶だったかもしれないが、刻と壮吾のために一芝居打ってくれたのだ。そりゃかなり怖い思いをしたけれど……いや、相当恐ろしかったけれど、マジでびびったけども。
下手をすれば壮吾はあの黒い影に飲み込まれていたかもしれないけど。
刻が繋いだ手をくっと引き寄せた。壮吾を安心させるような動作だった。そして人差し指を唇に当てると、ぱちんとウインクする。
――うっ!
壮吾は思わず胸を押さえた。
顔面偏差値最強のウインク(しかも好きな相手)は非常に心臓に悪い。
「たとえ僕のためとはいえ、おまえ、一生僕に仕えると誓ったくせに、今回の事で首を撥ねられる予想はできただろうに。その覚悟もしていたのか」
「それはその……強力なバックボーンがございました……ので」
「は?」
「え?」
答えになってるのかよくわからない返答だ。壮吾が首を捻っていると、隣の刻は「なるほど、そういうことか」と呟き、納得したような顔をしている。
「おまえわかったの? 俺全然わかんないんだけど」
「まあ、その話は後でゆっくり説明するとしよう」
いや、別にゆっくりじゃなくていいんだけど。
「ところで春井くん、気分はどうだ。横になるかい?」
優しい刻にまだ慣れなくて、いちいちドギマギしてしまう。
「あ……えっと、大丈夫。吐き気も嘘みたいになくなったよ。……心配かけて、ごめん」
じっと刻に見つめられる。繋いでない方の手がすっと伸びてきて、壮吾の前髪をさらりとかき上げた。
「あんな思いは二度とごめんだ。君を失うかもしれないと思ったとき、本当に恐ろしかった」
「久須美……」
繊細な刻の指が、羽毛に触れるように優しく、壮吾の頬を撫でる。
「君は自覚のないまま、闇の影響を受けていたんだろうね。奴らは人の弱みや悩み苦しみが大好物だから。いくら君が呑気でお気楽な性格でも、付け入るのは簡単だったのさ」
「確かに、今日の俺は過去一番悩んで暗かったかも」
「それにしてもだよ! 春井くん、君ね」
優しい表情から一転、しかめっ面になった刻は、壮吾をビシッと指さした。
「ひぇっ」
「この僕が愛を告げたというのに、それでも消えようとした君の行動は、腹に据えかねるよ、まったく!」
「そ、それは……ほんとに、ごめん……」
壮吾は握られた手にもう片方の手を添えて、刻を見つめた。過去に付き合った彼女も、きっとこんな無防備な刻の顔は知らないだろう。
そんな刻が愛おしくてなんだか可愛く見えて、壮吾は胸をわしづかみにされた気持ちになる。
久須美邸へ到着し、車から連れだって降りる。屋敷内へ入る間もずっと手は放してもらえず、壮吾は自分を引っ張る男の背中にお伺いを立てた。
「あ、あのさ久須美、もう手を……」
ギロリと鋭い目で睨まれ、うひっと身体を縮めた。それ以上は何も言えなくて、壮吾はおとなしく歩いた。
「お帰りなさいませ、刻様」
広い玄関で一斉に主人を迎えた使用人達が、そろって恭しく頭を垂れる。
しかし、さすが久須美家に仕える人達だと壮吾は感心した。
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