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俺の愛しの探偵 4
「あっ、あっ、ああっ、ぁあ、んっんっ、やっ」
「春井くんっ」
ビャッと中で刻が弾けた。「アッ」最奥に熱湯をぶちまけられ、熱さに目を剥く。
「やあっ、アッ、ア――ッ」
下肢が焼けるように熱く、どこもかしこも痺れて感覚が麻痺している。自分も達し、白精を飛ばしたのにも気づかなかった。
「もう逃がさないよ、決して」
「あ……く、すみ……」
刻の唇が、壮吾の唇にやわらかく触れた瞬間、意識はぷつりと切れた。
♢
やわらかな感触にうっとりしながら目覚めた時、壮吾の身体は大判のバスタオルにすっぽり包まれていた。
「……あれ……?」
「じっとして」
身体からホカホカと湯気が立っていて、手足がしっとりしている。
「俺、風呂入ってた……?」
気持ちよくて、ぽーっとしたまま問いかけると、耳元でタオル越しにくすりと聞こえた。
「君の身体を洗うのは新鮮で楽しかったよ」
「おまえが風呂に入れてくれたの……?」
「ああ、たとえ島ノ江でも他の誰かに君の裸体を見せるのは、もう我慢ならないからね」
刻がじっと壮吾の顔を見つめて、瞼や頬にキスをしてくる。頭が徐々に覚醒すると、壮吾はなんとも照れくさくて、いたたまれなくなってしまう。
その眼差しや仕草はとてつもなく甘く優し気で、ああ、本当にこいつは自分に惚れているんだと実感できるのはたまらなく幸せなのだが。
「そんなに恥ずかしがらないで。でも、そんな君も可愛いよ」
「う……」
晴れて両想いになり、ものすごく嬉しい。けれど、過去の十年近い付き合いはこんな甘さとはかけ離れていたから、どうにも慣れなくて困る。
「あのさ……その、甘ーい感じは、いつまで続くんでしょうかね……?」
「君は僕と何年の付き合いなんだ。僕が好きな相手には四六時中愛を表現する男だと知っているはずだろう。そっちに関しては自分を偽らない男だよ、僕は」
「わ、わかってる、知ってるよもちろん! でもその……俺の心臓がもたないから、せめて二人きりの時にしてくれよ。たのむから」
「……譲歩しよう」
ホッとして小さく息を吐くと、首筋にもキスを落とされる。こそばゆくて壮吾がクスクス笑うと、刻はややしんみりした声を出した。
「メイドの若梅は、心の表情が見えるんだ。顔を見れば、その人がどんな感情に支配されているか、どれだけ幸福を感じているか、わかる。どんなに表情を取り繕っても、彼女には見抜かれてしまうんだ」
「……え」
壮吾は、にこにこ笑顔や真っ赤になった若梅を思い浮かべる。確かに彼女は
「刻様にあのようなお顔を」とか言っていた。
「そっか……。どんなに本心を隠しても、若梅さんにはバレバレだったんだな」
普段の刻は誰の前でも、使用人の前ですら滅多に穏やかな表情を崩すことはない。しかし先ほどはあからさまな仏頂面だったのに、若梅にはお見通しだったのだ。
「君が出て行った晩、若梅に言われたよ。『お二人はおそろいのお顔をしてました』って…………」
何か引っかかるのか、刻は考えるように遠くを見つめた。
「どうした?」
「お揃い……僕と君の顔はお揃いだった……」
「ん?」
ははっと刻が軽やかに笑った。また見たことがない刻の一面に、壮吾の心臓がじんわり緩む。
「君への想いは魔性がきっかけで、徐々に愛情に変化したのだと思っていたが、もしかしたら」
壮吾は刻の胸に頭を預け、彼を見上げた。
「単に、一目惚れだったのかもしれないな」
「へっ?」
極甘の爆弾を投下され、壮吾の顔がカッと熱くなる。この男は、どこまで自分をドキドキさせたら気が済むのだろうか。
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