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刀禰との面会 1
「春井くん、準備はできたかい」
軽いノックの音に振り向くと、開け放したドアの横に刻が立っていた。
オーダーメイドの英国風スーツを着こなした姿は、何度目にしても見事だ。
室内の豪奢なインテリアと相まって、ここが日本だというのを忘れてしまいそうになる。
「どうした? ぼんやりして」
ぽーっと見とれていた壮吾は、我に返った。
「あ、うん。こんな格好したことないから、なんか似合ってんのかよくわかんないけど、どうかな……」
刻は大きな姿見の前の壮吾の傍まで来ると、一緒に鏡の前に並んだ。
「すごく似合ってるよ。やっぱり君の黒髪と白い肌には、この色味が合ってる」
「そ、そうか?」
「僕の見立てなんだから、安心してくれ。こっち向いてごらん」
「おう」
刻の手が伸びて、壮吾のタイを直してくれる。
――朝にネクタイ直してもらうなんて、新婚さんみたいだな……
「これでよし」
直してくれたネクタイをくいっと引っ張られ、チュッとキスをされる。壮吾が固まっていると、満足そうに刻が離れた。
「ますます新婚さんみたいじゃん……」
周囲にハートが飛んでいるような気がして、それに酔いそうで、壮吾はヨロヨロと鏡にしがみ付いた。
まだまだ、刻の仕掛ける甘い空気に慣れないのだ。
「こら、鏡にしがみ付かないで僕にすればいいだろう」
「いや、だって、超高級スーツにしわが寄っちまうだろ」
「別にかまわない」
「俺がかまうの」
壮吾はハッとしてシャキッと立った。壮吾の着ている服だって恐らくは高級スーツだ。
壮吾は、改めて自分の姿を鏡で見た。
スーツといっても、紺のウインドーペーンのチェックのジャケットに、ベージュのコットンパンツ、ブラウンのローファー。
襟が丸いデザインのワイシャツ、ネクタイは白のタッタソールチェック。
チェック+チェックだが、どちらも控え目でシンプルな柄だから問題ない。(と刻が言っていた)
目にしたことはあれど、正式名称までは知らなかったチェックの名前は刻に教えてもらった。
ギンガムチェックとかタータンチェックとかは日本でも馴染みがある。セーターや靴下の柄に多いのはアーガイルチェックだし。
だが、チェックの種類がこんなにも多いなんて初めて知った。なかなか奥が深い。
壮吾が持っていた服は、着回しができてシンプルな形や色ばかりだった。あまり目立ちたくないという理由もあるが、黒とかグレーとかの無地で、チェック柄は無いに等しい。
ほとんどがユ◯クロで揃えたものだ。
「こんな風に襟が丸い形のワイシャツもあるんだな。なんか可愛くていいな」
「君の優しい顔立ちを一層引き立てるデザインだ」
「えっ、そう?(照れるな)そういえばこのシャツ、胸ポケットがないんだな」
「ポケット?」
刻が驚いた顔をした。
「ワイシャツの左胸ポケット。仕事の時は便利なんだぜ。ボールペン差したりとか」
「ワイシャツにペンを差すのかい。作業着みたいだな。――しかし、正式なワイシャツにはポケットなどは付いていないよ」
「へえ、そうなんだ。知らなかった」
「君が自分で選んだユ◯クロもいいと思うが、これからは僕が君の専属スタイリストだから、全て任せてくれていい」
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