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刀禰との面会 2
刻がユ◯クロを知っていることに驚くが、その後の台詞にはもっと驚いた。
「えっ、ほんとに? ……嬉しいけど、それってすっげー贅沢だな」
しかし、刻に見立てて貰った壮吾の洋服は、過去にないほどお洒落なファッションなのだが、刻と比べるとかなりカジュアルだ。刻に疑問をそのまま伝えると、
「曾爺様は、英国風ファッションがお好きでね。正装とカジュアル両方お見せすれば喜ばれる」
「へえ、そうなんだ」
「祖父がイギリス人と結婚した影響もあるだろうね」
「そっかあ、久須美のおばあさんはイギリス人だって言ってたね」
刻の祖父母にも会ってみたい、という台詞が喉まで出かかる。
特に刻の祖父は、言うなれば壮吾の母親の腹違いの兄にあたる存在なのだ。
恋人同士になったのだし、そこは遠慮なく言っても気を悪くされることはないだろう。
しかし、壮吾は二十六年間の日陰思考からなかなか抜け出せないでいた。
恋人同士なら許されるであろう可愛いわがままも、言えていない。
――本当は、久須美の事なら何でも知りたいのに
遠慮というより、引け目を感じてしまうのだ。我ながら後ろ向きな思考回路だが、そうそう軌道修正は利かないようだ。
壮吾が久須美家の屋敷に住まいを移してから半月ほどが過ぎた。現当主である刻の曾祖父の刀禰に、その許可はもらっている。
が、全ては刻に任せきりだった。直接面会したのも、電話でのやり取りも全て。申し訳ないと思いつつ、だからといって、何か壮吾にできることはあるかといえば、なかったのだ。
住民票の移動も、依頼人を立て手続きを済ませた。
壮吾のしたことといえば、前住居のマンションの荷物から、里親との思い出の品を持ち帰ったことだ。(処分の前に大きな倉庫に一旦運んでもらい、発掘した)
その時だけは、まるで箱入り娘になったような気分だった。
血縁上、刻は刀禰の曾孫。壮吾は刀禰の孫だ。
しかし、千代は婚姻を交わした妻ではないから、その娘の壮吾の母は「外腹の子」「非嫡出子」に当てはまるのだろう。
血の濃さだけなら、壮吾は刻よりも刀禰に近いのに、刻との間にはやはり見えない隔たりを感じずにはいられなかった。
壮吾は久須美家の人間に認めてもらえるのだろうか。邪魔な存在ではないのかと。
刻と壮吾が互いの想いを確かめ合った後、刻は親族に一斉に手紙を出した。御両親や御祖父母からは、すぐにお祝いの連絡があったと教えてもらった。
特に刻の母親は、壮吾に会いたいと言ってくれたらしい。(写真をみせてもらったら、学生時代に見かけたことのある美人だった。新しい彼女かと誤解していた)(恐ろしく若い、清楚な雰囲気)
もし、認めてもらえたとしても、己の存在が久須美家の汚点になりはしないか。刻の輝かしい未来の邪魔にならないか、なってしまったら、どう償えばいいのか。
まさに、不安だらけの出発だ。
「どうした? 何か気になるのかい」
「あ、いや、ちょっと、緊張してるだけ。何でもないよ。ただ……」
ん? と、先を促すように刻が見つめてくる。その慈しみ深い眼差しに安堵しつつ、壮吾は胸の内を素直に明かした。
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