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刀禰との面会 3

「俺、自分が幸せになれるなんて思ってなかったから……何の不自由なく、立派な屋敷に住まわせてもらって、みんな優しくしてくれるし。何より、毎日おまえと一緒にいられて嬉しくて、なんつーか、俺なんかがこんな贅沢な毎日送っていいのかって考えちまう」 「春井くん……」  じっと刻に見つめられ、愛しさが募る。と同時に、自分がいたたまれなくなる。 「これから曾お祖父様との面会だってのに、こんな事言ってごめん」  刻に愛されている実感はあるし、信じられる。けれど、友人の立場なら大して気にならなかった身分の差や、天と地ほどの育ちの違いが、壮吾を苦しめていた。  それに何より――。  壮吾は、刻の鼻先にピシッと指を突き付けた。 「特におまえだ、久須美! おまえが……過去にないほど優しすぎるから、余計……怖いんだよ」  すっと刻の腕が伸びて、指を捕らえられぐいと引っ張られる。 「わっ」  壮吾の身体はふわりと抱き締められた。刻の体温、熱が伝わってきて、不安な心をじわじわ温める。 「久須美……」 「優しすぎて怖くなるなら、僕はツンデレを発揮すべきかい?」  どう答えたら正解なのかわからなくて、壮吾は高級スーツにしわがよらないよう、そっと刻の背中に手を回した。 「僕の想いは伝わってる?」 「それは……うん」 「よかった」  刻は壮吾の身体をそっと離し、顔をのぞき込むと言った。 「君が不安を感じる隙を与えないくらい、僕は君に愛を囁き続けるよ。……ツンデレも取り入れながら」  壮吾は我慢できずにぷっと吹き出した。 「おまえ、ツンデレの意味わかってんのかよ」 「多分ね、それに、千代さんはこの屋敷に来てから毎日嬉しそうだよ」 「えっ、千代ちゃんが?」 「もう以前のように、春井くんの心配はしていないらしい。君がここに居れば安心だからだ」  十八歳の若さで亡くなった祖母の千代は、長い間壮吾が心配でしかたがなかったようだ。彼女は成仏せずに、何十年もこの世を彷徨い、孫の壮吾を捜しあてた。  そして十年間壮吾の傍に憑き、孫の心配ばかりしていた。  壮吾の両肩に手を置いていた刻は、首を傾げた。 「そういえば、最近千代さんは……」 「ん、何? 千代ちゃんがどうかしたって?」 「あ、いや、大した事はないよ。さあ、そろそろ時間だ。下へ降りよう」 「わっ、もうこんな時間か」  壮吾は大事な面会があるのを思い出し、背中にピリッと緊張感が走った。  そして、刻のエスコートでエレベーターに乗り込んだ。  久須美邸を出発してから一時間ほど経っただろうか。車窓の景色が濃い緑色に変わっていく。グリーンのアーチをくぐり抜けているようだ。横も上も濃い緑の葉が生い茂り、行ったことはないが、軽井沢の別荘地のようだと思った。 「マイナスイオンすごそうだなあ、森林浴できそう」 「ここから歩いて行くかい」  やや意地悪そうな表情の刻に言われるが、向かう先は緑しか見えず、「まだ相当距離あるよね?」って感じだ。 「おまえのその言い方、すでに懐かしいぜ……そんな感じでいいんだよ。甘々だけじゃなくて、そういう塩対応も取り入れてくれれば」 「なるほど……それは非常にわかりやすいね」  いや、たまにでいいんだけどな。  

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