74 / 102

刀禰との面会 4

 そんなやり取りをしている間にも、島ノ江が運転する黒いセダンは、深い緑と木々に囲まれた道を進んでいく。  本当に、外に出て深呼吸したら、気持ちが良さそうだ。  しばらくすると、巨大で重厚な門が出現した。ずいぶん前に一度だけ行った、東京ディ◯ニーランドのアトラクションの入口みたいだな、と思った。    そんな話題が刻との間に上がったことはないが、ディ◯ニーの世界観は刻にぴったりな気がする。 「なあ、久須美、ディ◯ニーランド行ったことあるか」 「東京はないが……幼いころ、カルフォルニア州のテーマパークには行ったことがあるよ」 「へえ、カルフォルニアかあ」  壮吾は一度だけだが、里親の家にいたころ、年長者の壮吾が引率する形で小学生や中学生を連れて東京ディ◯ニーランドへ行ったことがある。初めてだから下調べは入念にした。  年下の子達と一緒になって舞い上がってしまい、小さなアクシデントはあったものの、ひどく楽しかった思い出だ。  年間パスポートを持つことも珍しくないご時世で、来園が一度きりの壮吾は珍しい存在かもしれない。だからこそ、その時の光景は今でも鮮やかに思い出すことができる。  もし、刻と一緒に行けたら、楽しい思い出がまた一つ増える。 「本場は広いんだろ、行ってみたいなあ」 「そうだな、君と一緒に行けるなら……フロリダ州のテーマパークがいい。あちらは規模がとてつもなく広大だから、一週間くらい滞在すれば満喫できる」 「えっ、アメリカのディ◯ニーランドって二か所あるんだっけ?」 「春井くん、君、元英語の講師のくせに何故知らないんだ」  刻に呆れた視線を向けられるが、壮吾の頭の中は、フロリダ州のディ◯ニーリゾートへ勝手に飛んでいた。    刻と一緒に旅をしたら楽しそうだ。それが海外だなんて、想像しただけでワクワクする。刻は語学が堪能だし、壮吾も英語圏なら日常会話には自信がある。それに、自分の語学力を実際に試してみたいと前々から思っていたのだ。 「もうじきでございます」  島ノ江の声に、フロリダに飛んでいた壮吾の意識は引き戻された。 「君、今どこかに行っていただろ」  刻に流し目を送られる。いつのまにか手を握られていた。 「あ、わかっちゃった?」 「……そりゃ、わかるさ」  やや不貞腐れた様子の刻が可愛く見えて、壮吾は握った手の平に力を込めた。    先程のディズニーランドを連想させる巨大な門から、車で一、二分。緑は多いし、一人で迷い込んだら、大人の壮吾でも迷子になりそうだ。 「曾爺様自慢の見事な庭を堪能できるよ。歩いてみるかい」 「お、いいね、見たい」  そろそろ腰を伸ばしたかったのもあり、壮吾は車を降りた。  眼前には、立派な日本庭園があった。そんじょそこらの庭園ではない。白砂が敷き詰められ、繊細な波模様を描いている。立派な石灯籠も点在しており、物凄く広い。 「すっげえ……これ、枯山水ってやつだよな」 「よく知ってるね、そうだよ。枯山水庭園だ。白砂は国産にこだわっていると曾爺様が自慢げに教えてくれた」 「へえ~、光がきらきら反射して、綺麗だな」  良かった。正解だった。  

ともだちにシェアしよう!