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刀禰との面会 5

 ディ◯ニーランドはともかく、外国の血が流れている刻よりも、壮吾は純日本人なわけだし、あまり格好悪いところばかり見せたくない。  ――それしてもなあ。久須美家の当主の本宅だから、バリバリの洋風を想像してたけど、洋風は入り口の門だけなのか? 「おいで、この先にも見事な庭がある」  刻が柔らかく言った。 「あ、うん」  ――ちょっと待て。今の「おいで」にはきゅんとしたぞ。……くっそお、反則ワザ使いやがって……  壮吾は思わず舌打ちして胸を押さえた。  刻と二人、庭園を眺めながら並んで歩く。正面には、巨大で立派な和風建築の建物がどどどでーんと壮吾を待ち構えていた。 「すっっっげえ……」  規模が尋常じゃなかった。    大昔の権力者の屋敷か! と突っ込みたくなる。そう、時代劇で見たお屋敷を更に巨大で豪奢な趣に建てたような感じだ。  今にも白馬に跨がった、暴れん◯将軍が登場しそうである。 「待てよ。暴れん◯将軍が居るのはお城だよな……もっと日本の歴史か和風建築について勉強しないとわからねえな」  少し遅れを取った壮吾を振り返り、刻が言った。 「何をブツブツ言っているんだい春井くん。この見事な建造物を前にして言葉を失ったのかい」  「それもあるけど、自分の勉強不足を実感してるところ」  刻が怪訝な顔をする。  そして、刻が白馬に跨ったなら、見目麗しい西洋の王子様がぴったりだよなと思った。  最近、刻からの甘い眼差しばかり受けてきたから、こんな風に冷ややかな視線もたまには悪くないなと壮吾は思った。 「まじでパねえな、曾爺様。規格外の超純和風建築じゃん」  圧倒された壮吾の口から出たセリフは、品も教養もゼロの中坊のようなセリフだった。 「曾爺様は城も検討されたようだが、周囲と相談したのち、平屋の建物に決めたらしい。何しろ城は高さがある。天守閣に上がるために内部にエレベーターなど作ったら、情緒の欠片もないからね」 「言えてるな。それじゃからくり屋敷になっちまう」 「からくり屋敷? それはそれで興味深いな。電気に頼らず全てからくりにすれば……」  刻が思案を巡らす様に腕を組んだ。 「おいおい冗談だろ」  思わずツッコミを入れるが、久須美家なら財力に物を言わせて、からくり屋敷くらいちょちょいとを造れそうだから怖い。  そんな調子の緩い会話を続けながら刻と歩く。  穏やかな表情の島ノ江が、静かに背後に控えているのは心強かった。  美しい日本庭園と建造物を眺めながら、刻と共に歩くことで、壮吾の緊張は解れていった。  ――刀禰様にお会いするのがちょっと楽しみになってきたぞ  屋敷の奥にも数か所、日本庭園があるらしいし、壮吾は半分浮足立っていた。 「さあ、着いたよ。入りたまえ」  刻が壮吾を先に行くよう促した。 「ありがと」  低めの塀に囲まれた入り口から向こう、玄関(これまた巨大)まで、大きい飛石が延々と敷き詰められている。光が反射して綺麗だ。  この石を始め、庭を造るためのあらゆる材料は最高級のものを調達してるんだろうなあと、壮吾は一歩踏み出した。  ――ん? 「どうした、春井くん」  踏み出したつもりなのに、足元に目を落とすと、壮吾の足はきちんと揃っていた。 「あれ?」  持ち上げようとしても、足が動かない。  ここまで何の問題もなく、てくてく歩いて来たというのに。  

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