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刀禰との面会 6

 刻が、後ろを振り向いた。それに釣られて島ノ江も振り向く。 「千代さんか」 「そのようでございます」 「えっ、千代ちゃんがどうかしたのか」  二人は、壮吾と後方を交互に見ている。  ――どうしたんだろう、千代ちゃん    千代に何かあったのだろうか。どういうわけか千代は、壮吾のすぐ傍に居らず、後ろの方にいるらしい。壮吾は心配になってくる。  ――あ……  そうか、壮吾が刀禰の屋敷に来れば、千代を伴うのは必然だ。元陰陽師で霊能力の強い刀禰なら、千代の存在を察知するのは容易いはずだ。しかも、元師匠と弟子、そして、抜き差しならぬ関係だった二人。  壮吾が生まれる遥か昔の出来事だし、壮吾の知り得る内容はそこまでだ。久須美邸で、刻と島ノ江から簡単な説明を受けたきり。 「千代ちゃん、もしかして、困ってるの?」  壮吾は、祖母がいる辺りを見つめた。 「すまないな、千代さん。最近の僕は幸せに浮かれていて、あなたの存在を空気のように感じていたから、気づけなかった」 「えっ……って、おまえ、そんな遠くから話しかけても」 「大丈夫だ。ちゃんと千代さんに僕の声は届いているよ」  相手が霊体だとそういうもんなのか。 「千代様の姿が徐々に薄くなってきていますので、しかたがないかと思われます。それに、千代様は、戸惑っておいでのようですね」  島ノ江が、刻をフォローするように言った。 「えっ、千代ちゃんが薄い? ……それじゃ千代ちゃん、ここにくるの嫌だったのかな」 「いや、彼女は首を振っているよ。嫌なわけではなく、自分がここに入ってもよいのか、戸惑っているようだ。――そうだね、千代さん」 「頷いておいでです」  と、島ノ江。 「千代ちゃん、そっか、嫌なわけじゃないんだね、よかった」  壮吾は、ほっと胸を撫でおろした。同時に、大事なことを思い出す。 「なあ久須美。その……刀禰様は、俺に千代ちゃんが憑いてるのをご存じなのか」 「いや? 特に話してはいないよ」  刻はさらりと答えた。 「そうなの? え、でも千代ちゃんのためには話した方がよかったんじゃないか」 「ああ。僕も最初はそう思ったが、彼女がなんのアクションも起こしてこなかったからすっかり忘れていたよ。はっはっは」 「ええ――」  いくら浮かれていたとしても、千代は壮吾の祖母なのだ(霊体だけど)もっと彼女の事も考えてほしいものだ。 「千代様は、もじもじしておいでです」 「そろりとこちらを伺い、ぱっと後ろを向いてしまわれました」 「再びちらりとこちらに顔を向けられました」  島ノ江が見たまんまを伝えてくれる。さながら、ライブ中継のようだ。  笑っていた刻が、ようやく真面目に千代の相手をする気になったらしく、口を開いた。 「千代さん、諦めなさい。もう敷地内に入ってしまったんだ。曾爺様は気づいておられるよ、きっとね」 「千代様は『えっ、そうなの? それならそうと早く教えてくださらないと』と、お口を尖らせておられます」  ――なんだか、千代ちゃんて本当に純粋で可愛い女の子なんだなあ。写真で見た姿も、美人さんだったし  そんな女の子と一線を越え、孕ませた刀禰に対して、再び複雑な思いが過ってしまう壮吾だった。

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