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壮吾、覚醒 3
壮吾は、魔性の目のせいで男性が苦手なようだが、だからといって男性恐怖症でもない。自分の存在を軽く見ている嫌いはあれど、特別自分に自信がないようにも見えない。
刻の顔をなにかと「イケメン」だと言ってくれるし、島ノ江や若梅や、刻の屋敷の家臣達を「顔面偏差値が高い」と言っていたし。
自分を卑下しているわけでもなく、主観の問題でもないらしい。となると、考えられるのはただ一つ。
壮吾の目に、何かフィルターのようなものがかかっているとしか思えない。それも、自分の顔を見るときだけ。
――あるいは、鏡か……
そのフィルターが取れた時、壮吾は自分の姿を見てどんな風に驚き、感想を持つのか、楽しみではある。
「あ、小っちゃい鳥がいる。可愛いなあ~」
「君の方が……」
「え?」
「いや……全てが終わった後で、一緒に庭を散歩しようか」
全てが終わった後、という言葉に反応しながらも、壮吾はコクリと頷いた。
そう、これから始まる儀式が終わるまで、全てはおあずけだ。
呼びに来た島ノ江の案内で、刀禰の待つ大広間へ向かう。準備は整ったようだ。
壮吾はほんの少し緊張しているようだが、好奇心を抑えられないのか、興味深そうにきょろきょろとあちこちに視線を飛ばしている。
枯山水にも興味を示していたし、意外に壮吾は刀禰と趣味が合うかもしれない。
――そういえば、千代さんは……
刻が広い廊下の後方を確認すると、千代は距離を取りつつも、ちゃんと刻と壮吾に着いてきていた。
黙って屋敷を出た壮吾を、迎えに行った日。
都心の神社の境内で、黒い影に飲み込まれそうになった壮吾を千代が助けた。
衝撃で千代は飛ばされてしまい、その日を境に、千代の身体は徐々に力と色を失っていった。黒い影が原因か、あるいは、刻と壮吾が想いを確かめ合ったことで安心したのかわからないが。(十年間も心配し通しだったから無理もない)
千代との別れが目前に迫っているのは否めない。刀禰がこれから執り行う儀式にこそ、今後の千代と壮吾の運命がかかっていると言っても過言ではないのだ。
刀禰は、千代を成仏させるつもりのようだ。確かに力の弱っている彼女を放置していたら、悪霊に取り込まれるか、最悪な場合は地縛霊に変化してしまうかもしれない。
そもそも、霊能力の落ちた刀禰に(千代にもなかなか気づかなかったし)儀式が行えるのかも不明だ。
不透明なまま、もうひとつ気がかりなことがある。
壮吾のことだ。
刀禰は壮吾を歓迎してくれたように見えた。存在が不明だった実の孫だからというのもあり、あの様子は本心だと思う。
しかし、刻の人生のパートナーとして認めるかどうかという話になれば別だ。「君が刻の伴侶だね」とは言っていたものの。無事面会できたからといって決して安心はできない。
和やかな面会、イコール曾孫との仲を認める、いう図式に簡単になりはしない。久須美刀禰とはそういう「食えない男」なのだ。
――つくづく、敵には回したくない相手だ……
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