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壮吾、覚醒 4

 幼い頃から、他の曾孫を差し置いて猫可愛がりされた身だからこそ分かる。  刀禰は、そう簡単に刻の伴侶として壮吾を認めてはくれないだろう。  ――まあ、僕としては、これから先の長い人生を春井くん以外の人間と生きていくつもりは毛頭ないから、認めてもらうしかないのだが。  先日、神社の境内で刻が想いを打ち明けた後、逃げようとした壮吾に対して怒りを感じた。  彼のあまりにも後ろ向きな思考には、滅多に怒らない刻が本気で腹を立てた。    ――僕が愛を伝えたというのに、まったく、春井くんときたら……  奥ゆかしい大和撫子を地で行くのは好ましいが、ネガティブもほどほどにしてくれないと困る。 「おい、なーに悪い顔してんだよ」 「えっ」  壮吾が、拗ねたような顔をして刻をじっと見つめていた。「今の俺の話、聞いてなかっただろ」と、唇をつんと尖がらせている。  そんな無防備で可愛い顔を見せられたら、思い出した怒りは消えてしまうではないか。 「春井くん、君。そういうところだぞ……」 「えっ、なんだよ~」  拗ねて見せながらも、喜びがあふれ出ている彼の姿に、愛しさがこれでもかと湧いてくる。  そうだ。  刻は、壮吾が穏やかな心地で傍にいてくれたなら、他には何もいらないと思っている。それはまぎれもない本心だ。 「春井くん。いざとなったら僕は、君の手を取ってどこまでも逃げるよ。君だけを連れて」 「……なんだよ、急に」  壮吾の足が止まった。壮吾の澄んだ瞳に、不安気な影が過る。刻は壮吾の手を握りしめた。 「どんなことがあっても、君の手だけは離さないという意味さ」 「久須美……」  そうだ。  壮吾がネガティブなら、ポジティブモンスターの自分が、彼を不安にさせなければいいだけだ。 「恐れながら、私も何処までも、地の果てまでも、お二人についていきます故」  前方から島ノ江が口を挟む。 「おまえが来たら他の者も皆ついてくるぞ」 「なんか想像しただけで賑やかだね」  島ノ江の一言で、たちまち壮吾の不安気な瞳に輝きが戻る。  数日前まで怯えていた壮吾も、島ノ江に対する信頼を取り戻したようだ。  廊下の先、一際大きな扉の前に折り目正しく執事が立っていた。島ノ江の父親、乗治朗だ。 「お待ちしておりました、刻様、春井様」 「待たせたね、乗治朗」 「どうぞ、こちらでございます」  観音開きのドアを開けた先は、この屋敷で一番広いリビングだった。  やはり大正ロマンを色濃く残した印象のインテリア。  和色の青の種類である、舛花色の壁。柱や木材は漆黒。床板は赤墨。  高い天井に吊るされた数個の洋風のシャンデリアが、花を添えている。それは不思議と部屋の雰囲気にマッチしていた。  ――この部屋で儀式をやるのか……?  刻はてっきり、祈祷場に案内されるものと思っていた。しかし、部屋の中央の巨大なソファーの真ん中に、刀禰が座っている。  衣装は着替えたようで、白紋入りの白袴を召しているが、道具の大麻や笏は持っていないし、垂纓冠もつけていない。

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