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壮吾、覚醒 8

 と、やけに壮吾の涙がキラキラ光って見えた。部屋の照明は抑えてあるから、それが際立っていた。 「千代……」  刀禰の声に顔を上げると、千代もキラキラと発光していた。  間違いなく、壮吾と千代の二人が発光しているのだった。  ――これは……  壮吾は、何が起こっているのかまったく把握していないようだった。    無理もない。自分の身体が光っているから、その眩しさに遮られて周りが見えないのだ。 「お、おい久須美、俺の身体……一体どうなっているんだよ」 「春井くん、僕は隣にいるよ。大丈夫、じっとしているんだ」 「わ、わかった」  手を握りたいが、今、彼の身体に触れていいものかどうか、わからないのがもどかしい。 「壮吾くん、案ずることはない。刻の言う通りに」 「あ……はい」  刀禰が数珠をじゃらん、と鳴らした。  そして徐に立ち上がると、静かに両手を合わせ合掌した。  ――おお……  刀禰の身体から、煙のような湯気のようなものが立ち昇るのが見える。    それは最初は青味がかっており、徐々に黄色、金色に変化していった。  可齢とともに、陰陽師としての力や霊能力を失いつつあった刀禰の、まさに復活の瞬間だった。 「凄い……」  思わず感嘆の言葉が刻の口からこぼれた。  千代と壮吾の発光の度合いがぐんぐん上がっていき、光のオーラが広がる。ますます壮吾の姿を隠してしまい、大丈夫なのかと心配になる。  ――千代さんだけならともかく、なぜ春井くんまで光るんだ?  刀禰に問いかけたいが、経を唱えている状態では難しい。    乗治朗の方へ顔を向けると、落ち着き払った穏やかな目と視線が合う。まるで「大丈夫」というように大きく頷かれてしまった。  ――本当に大丈夫なのか……  刻は舌打ちしたい気分だった。  これが自身の事ならさっさと気持ちを切り替えるのだが、壮吾のことになると、そうもいかない。  島ノ江を見ると、父親を見て安心したのか、すっかりいつものポーカーフェイスを保っている。  刻だけが、ヤキモキしているのだ。  ――ああ本当に、僕は春井くんが好きで、大切なんだな……  改めて実感し、くすぐったい心地になるが、一刻も早く彼の無事を確認したかった。  眩しさに目が慣れてくると、千代と壮吾の発する光の帯が伸びているのに気づく。  それは互いに、引き寄せられるように近づいていた。  千代と共に壮吾までが天に昇ってしまいそうで、刻の胸を一抹の不安が過る。 「春井くん!」  刻は我慢ならず、光り輝く壮吾の身体に手を伸ばした。  壮吾を連れて行かせるわけにはいかない。全力で阻止しなければ。  刻の手が、ちょうど壮吾の肩に触れ、しっかりと腕を掴む。 「あ、久須美……」  壮吾も腕を伸ばしたから互いの手と手が強固に繫がる。刻は彼の身体を支えた。  刀禰はそれに気づいているのかいないのか、経を唱え続ける。 「春井くん、体調に変化はないかい? 吐き気とかは」 「大丈夫だ。むしろ、温かくて心地良いくらいだ」  確かに、壮吾の手も腕も、温かい。光の中に右腕を突っ込んでいる刻の手も、皮膚に日だまりのような温かさを感じている。

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